Ark makes GENOCIDE

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チャプター10 改竄

- 改竄 -


日本 国立極地研究所ーー昭和基地
PM 4:19


「つ、着いた…やっと休める……」

「わりと近くに着陸してたみたいでよかったね…あと十数分、外を歩いてたら凍傷になってたかも…」

「ああ、指先とつま先の感覚がもうねぇや。あったかい風呂に入りてぇ…」

凍えながら昭和基地に辿り着いた2人は、息も絶え絶えに基地の建物内に入っていった。

「大丈夫かな…なんか、人の気配がないような気がするけど…とりあえず、誰かいたら聞いてみよっか」

二人は基地の中心部である管理棟に足を踏み入れ、居住棟での休憩を申し入れる為、職員を探した。
しかし、どこを探しても一人として見当たらない。とはいえ、ずっと無人であったような荒廃した様子もなく、むしろさっきまで人がいたような気配さえ感じられた。
その証拠に、機械管理されている建物内は外気温とは比べものにならないほど、心地よい温度を保たれており、電気も空調も稼働しているのだ。

「おかしい…この状態で誰もいないとか、あり得るか?」

「うん…この静けさ……なんか、ゾンビでも出てきそうな雰囲気だね…」

「おいおい、勘弁してくれよ…人知れず日本の観測基地はゾンビの巣窟になってたとか…バイオハ○ードじゃあるまいし…笑えねーよ」

冗談を言いながら歩き回ってみるものの、やはり施設に人の気配はなく、嵐たちはとりあえず歩き回っている際に偶然見つけた管理棟内の図書室で腰を下ろし、これからの作戦を練ることにした。

「マクマード基地も本来、ここと同じ極地観測基地なの。で、そんな場所に運び込まれたっていう兵器はきっと基地の設計図には記載されていない地下かどこかにあると思うんだよね…」

「なるほどな…建前上は観測基地でも、国連には極秘で地下に武装施設を設けてたって訳か…どんな局面でも優位に立ちたがる米国らしいな。そんな米国も今じゃ海の藻屑だけど。じゃあ、京極が合流し次第、とりあえず右京やエンツォたち全員ブッ倒して、地下のミサイル制御装置を破壊すれば、万事オッケーだな!」

「ダメだよ!地上でそうやって戦闘を行ってる隙に、発射されたらもう止めようがないもの」

「じゃあ、どうするんだよ…」

ふて腐れた顔で嵐が問い詰める。

「待ってて。マクマード基地のサーバーにアクセスして、まず地下の施設の図面を探り出してみるから」

「マジか…美波、お前、すげぇな…イーサン・ホークにスカウトされんじゃないか?」

「……誰、それ…?」

女性特有の、男のロマンを理解できないという呆れた物言いで美波が言った。

「い、いや、なんでもない…」

そして、男はそんな女性の冷たい対応に心打ち砕かれ、ひっそりとロマンを心の中にしまい込む。
カタカタと、歯切れのいいタイピング音だけが居住棟内に微かに響き渡る。
ベテランOLでもマネできないほどのタイピングスピードでアクセスへの攻戦がひたすら続く。その様子から、複雑で強固なプロテクトを纏ったサーバーだということはさすがの嵐でも分かった。

「…いけそうか?」

嵐の問いかけに美波の反応はなかった。
よほど集中しているのだろう…モニターを見ても、嵐にはさっぱり理解できない暗号のような文字の羅列ばかりで、進捗状況は謎だった。

 

 

一方、京極はというとーー

ロンドン郊外 ヴォクソール


「ご用件は?」

「日本防衛省 特務機関JACKALの京極という者だが…長官にお目通り願いたい。アポは取っていないが、火急の用件だと伝えてくれ」

「かしこまりました。しばらくお待ち下さい」

京極はMI6の本部に来ていた。
アポ無しにも関わらず、受付で堂々と長官に会いたいと要求するあたり、非常識というべきか大胆というべきなのか…しかし、京極にはある狙いがあった。

「お待たせ致しました。長官がお会いになるそうなので、奥のエレベーターで最上階まで上がられて、右の通路を進まれたオフィスの奥が長官執務室となっております」

「ありがとう。」

クールに礼を告げ、エレベーターへと歩いていくその姿は本来であれば国境を越えて通用するほどの端麗さであったが、右手に持ったノースフェイスの大きなショッパーの為か、どことなく田舎者のようなもっさりとした雰囲気になっていた。
颯爽と歩いていく京極の後ろで受付嬢がクスクスと笑っているのが何よりの証拠だ。

 

 

 

「………よし!いけた!」

文字の羅列が辛くて目を背けていた嵐が画面に視線を戻すと、そこには設計図のようなCAD図面が表示されており、その図面はかなり複雑な構図になっていた。

「こ、これがマクマード基地の地下の施設…な、なんだよ、これ…まるでインディー・ジョーンズにでも出てきそうな古代遺跡ばりに複雑じゃねぇか…」

「……その例え、なに。まぁそれは置いといて…一難去ってまた一難。図面だけでもこれだけ手の込んだセキュリティがかけられていたのも頷けるかな。兵器はミサイル…たぶん"核"かな…わかんないけど。このミサイルの制御を掌握するには、いくつかのセキュリティを通過しないといけないみたい。」

「そんな面倒な…いくつあろうが、セキュリティなんてブッ潰して、一気にミサイル制御室まで特攻をかけてやるぜ!」

「ダメだよ!!そんなことしたら、セキュリティのアクセスにエラーが出た時点でミサイルが発射されるトラップが仕掛けてあるんだから…ブッ潰した時点でユーラシア大陸は崩壊だよ…?」

「え…そうなの……」

一流の諜報員とは思えないような叱られ方をして、尚且つ子供のような反応しかできなかった嵐。ハイテクノロジーに関しては全くの素人…いや、それ以下の知識しかなかった。

「まずはパスコードの入力認証、その次が網膜と指紋の同時認証…そして最後がX線による骨格認証…すごく厄介なセキュリティ…」

嵐は完全に話について来れていないと思っているのか、美波は一人で頭を抱え悩み込んだ。

「要するに、マクマード基地にいる部隊の指揮官か、もしくはエンツォをとっ捕まえて引き連れて行ってセキュリティを解除すればいいんだろ?」

「う〜ん、でも捕まえる前に浸入に気付かれて、スイッチを押されたらそれでオシマイだよ?」

「…うぐっ……じゃあ、どうすんだよ…」

美波は再びカタカタとキーボードを叩き、なにやら調べ出した。

「…あれ、おかしい。この図面の説明には、万が一の世界情勢に直面した時、これの使用を許可できる認証対象として、登録されているのは米国大統領、国務長官、将軍の三名のみって…まさか、今基地にいるテロ組織にセキュリティを書き換えられたっていうの…?」

「そりゃあ、ホワイトハウスのサーバー乗っ取るくらいの敏腕ハッカーがいるなら、そんなの朝メシ前なんじゃねぇの?」

「あ、そっか…うーん、パスコードは私が遠隔でなんとかできたとして…網膜はコンタクト、指紋は特殊樹脂でいけそうだけど…骨格はどうしよう」

「X線なんてどうしようもねぇだろ…レントゲン撮られるってことだろ?」

「うーん…レントゲン…ん?…そう!そうだよ、嵐ちゃん!認証の照合データを書き換えることができたら、パスできるはず!」

嵐は眉間にシワを寄せて首を傾げている。

「だーかーら!セキュリティのコンピュータが、嵐ちゃんの体を解析した時に、この骨格で 合ってるかどうか答え合わせをするための元データがあるでしょ?例えば、今は大統領や国務長官の骨格データが正解だったとしたら、嵐ちゃんの骨格データは不正解なワケじゃない?だから、その答え合わせ用の元データ、つまり大統領や国務長官の骨格データを嵐ちゃんの骨格データに変更しておけば、嵐ちゃんがX線で解析されても、セキュリティは嵐ちゃんを大統領や国務長官だと認識してオッケーしちゃうってこと!」

「いや、その説明、ますますわかんねーよ…」

「もう!なんでよ!じゃあ、クイズで考えて。薔薇って漢字の読み方の正解は(バラ)だけど、それを(バカ)が正解ってことにしとけば、嵐ちゃんがクイズで薔薇の読み方は(バカ)!って答えても正解になるってこと!」

「あー!なるほど!……でもなんか、その例え、俺のことバカにしてないか?」

「…え?…気のせいだよ……」

美波は乱れた左サイドの髪を耳にかけながら視線を逸らした。
嵐は絶対、図星だと思った。

「で、そのデータの書き換えはどうするんだ?まさか、美波…お前、そんなことまでパソコンで出来ちゃう訳じゃないよな…?」

「まさか。そこまでできたら、私、世界征服も夢じゃないじゃん。…じゃなくて、元データを格納してるサーバーがマクマード基地の最下層にあるの。そこに侵入して、元データと嵐ちゃん用のデータを入れ替えれば、セキュリティは全突破したようなもの」

「最下層…それ、侵入できるのか?」

美波はモニターの図面を指差しながら説明を始めた。

「マクマードの最下層…この図面なんだけど、マクマードの電気は全て水力発電で賄われていて、その水流のサイクルがここから水管を通って海へと出て、循環しているの。だから…」

「お、おい…まさか……」

美波は満面の笑みを浮かべて答えた。

「うん♪嵐ちゃんが海に潜って、そこからその水管を辿ってサーバールームに侵入するの♪」

「ちょ、ちょっと待てよ!海って、ここ南極だぞ?水温何度だよ!潜って数秒で死ぬって!」

「大丈夫。たぶんこの昭和基地にも計器点検用のウェットスーツがあるはずだから、そのウェットスーツを使って潜れば寒くないよ♪」

美波のテンションはどう見てもナチュラルにハイである。
絶対におもしろがってる…嵐はそう思った。

「世界を救うためだと思って、頑張って♪」

もはや、美波の言葉には堪えた笑いが含まれている。
嵐のセキュリティ突破任務はタチの悪い罰ゲームと化しつつあった。

「わかったよ…その代わり、手厚いサポート頼むぜ?」

「もちろん、全力でサポートするね」

 

 

 

ロンドン郊外 ヴォクソール
MI6 長官執務室 同時刻


「失礼する」

"どうぞ"

未来感がありながらも、どこかノスタルジックな歴史を感じさせるハイセンスな本部の最上階で待ち受けていた部屋の入口は、品のある艶に覆われた重厚な木彫の二枚扉だった。

「私は日本防衛省管轄の対テロリスト暗殺部隊JACKALに所属する京極という者だ。アポもなく突然押しかけたことを、まずはお詫びする。」

「構いませんよ。R…もとい嵐君から貴方のことはよく聞かされていたのでね」

「ならば話は早い。本日はお願いがあり、ここに参上した次第だ」

「うかがいましょう…どうぞ」

ロータス長官は扉の前に立っていた京極を席に掛けさせ、ただ黙って京極の話を聞いた。

数分後ーー

「……という訳なんだが、どうだろうか?」

「なるほど。実に興味深い話ですね。私も少なからず、その可能性は考えていましたが、あいにく確証がありません。京極さんの要請は前者は飲めますが、後者は残念ながら…」

ロータスは京極の話を聞き終え、冷静に結論を京極に話した。

「いや、それで構わない。俺も後者はあくまで推測の域を出ない話だと思っている。推測だけでお宅に迷惑をかける訳にもいかないからな」

「ご理解、お気遣い、感謝します。それでは、さっそく前者の要請については、手配しておきましょう」

 

 

 

南極 昭和基地
PM 7:07


「ふぅ…だいぶコンディションも元に戻ってきたな。それにしても、太陽が全然沈まねぇな。これが噂に聞く、白夜ってやつか…?」

「ほんとだね…南極の人はどのタイミングで寝るんだろ。そういえば、ディアブロを飛ばしてからそろそろ3時間…京極さんもそろそろ着く頃かな…着いたら休ませてあげないと…だね」

「いや〜京極は大丈夫だろ…普段から事故車みたいに乗り心地の悪い車に乗ってるんだから」

「事故車って…ディアブロで体感するGとはまた別物じゃ……」

ーーバタン

嵐たちが休んでいた部屋とは別のところで、扉が閉まるような何か物音がした。

「今の音…京極か…?」

「ど、どうだろう…ゾンビだったりして……」

美波は相変わらず、ゾンビネタにご執心の様子だ。その言葉に嵐は呆れた様子で言葉を返した。

「やめろって…縁起でもねぇ。ちょっと見てくる…ここで待ってろ」

「うん…気をつけてね」

部屋を出た嵐は、念のため銃を構えながら、静まり返った廊下をゆっくりと歩いてゆく。
しばらく歩いていくと、嵐たちがここに来た時には全ての部屋の扉が閉まっていたはずなのに、一室だけ、扉が開いている部屋があった。
嵐は明らかに不審に感じ、ゆっくりと足音を立てず部屋の前まで近づいて行った。

「そんなに警戒して、何に怯えているのだね?」

背後からの声に嵐はすかさず振り返り、銃を構えた。

「……胸に十字…テンプル騎士団か」

嵐の背後から聞こえた声の主…法衣の下に甲冑を身に纏った40代半ばほどの男が1人で立っていた。

「いかにも。私はテンプル騎士団、団長エスカレード。」

「へぇ…滅びかけの騎士団のボスのお出ましか。美波が言うゾンビってのも、あながち間違いじゃなかったようだな。ここが無人なのは、お前の仕業か?」

「ゾンビ?言ってくれるな。ここの者は皆、観測棟で保護している。貴様たちがここに来ることは大方の予想がついていた為、彼らに被害が出ないよう、観測棟に入ってもらったまでのことだ」

「なるほど…やっぱ騎士団っていうだけあって、その団長ともなると騎士道精神ってやつを持ち合わせてるみたいだねぇ…その点は感謝するとして。でもまぁ結局、俺たちを仕留めに来たってワケだよな」

「そういうことだ。我ら騎士団の名にかけて、教皇を暗殺した貴様を許す訳にはいかない…覚悟するがいい!」

「またそれかよ…俺じゃねーんだけどなぁ…まぁ、南極着いてから踏んだり蹴ったりで体も鈍ってたことだし、ウォーミングアップさせてもらいますか!」

「御託はいい。テンプル騎士団長エスカレード、推して参る!!」


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