Ark makes GENOCIDE

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チャプター12 潜入

- 潜入 -


南極 ロス海沿岸 ヴィクトリアランド

PM 8:37

ロス海西側に位置するヴィクトリアランドにセスナ機を着陸させた二人。

京極はMI6に提供してもらった大量の銃火器が入ったボストンバッグを担ぎ、嵐はセスナから小型の潜水艇をソリに乗せたまま引き降ろし、上着を脱ぎ頭まで覆う型の全身タイツのようなウェットスーツ姿に完全防水のウエストポーチを腰に巻き付けた。

「よし…行くか」

「ああ、死ぬなよ…京極」

「お前もな…凍死だけはするなよ」

「そんなダセェ死に方だけは勘弁だな…ヤッベ!あと1時間だ…それじゃあな!」

嵐は雪原をソリを押して走っていき、あっという間に姿が見えなくなった。嵐を見送った京極もゆっくりとマクマード基地のある方角へと歩いて行く。

沿岸からは長い年月を経て形成された氷棚と呼ばれる海に浮かぶ分厚い氷がロス島まで続いており、京極はアイゼンで一歩一歩踏みしめて歩いて行った。

"京極さん?こちら美波。ミサイルの制御装置がある地下施設は図面上では発電施設の真下にあるみたいなので、まずは電気を供給している太いパイプの高電圧線を見つけて、それに沿って発電施設へ向かってください。"

耳に付けたインカムから美波の指示が入り、京極は辺りを見回した。

マクマード基地の様々な施設がすでに肉眼で確認できる位置まで来ていたが、美波の言う高電圧線らしきものはまだ確認することができなかった。

「了解…もうマクマード基地は見え始めているが、それらしきものはまだ見当たらない。とりあえず、もう少し進んでまた報告する」

 

一方、嵐はーー

ロス海 水深1000m付近

ーーここから潜入か…。

嵐は呼吸を整え、潜水艇から海中へと出た。

全身を襲う尋常ではない水圧。

酸素ボンベから支給される空気圧がそれに負けじと体の内部から押し返してはいるものの、こんな状態が1分を超えれば、酸素ボンベに含まれる窒素の過剰摂取で窒素酔いを起こし、意識を失ってもおかしくはない状況だった。

ーーくそ…体が思うように動かねぇ。まだ20秒ほどしか経ってねぇのに…話が違うじゃねぇか…美波のやつ。

マクマード基地の水力発電所への排水路は目と鼻の先だったが、それでもこの状況下の嵐にしてみれば、なんと長い距離だと感じていたことだろう。

手足の自由が利かなくなる前になんとか辿り着こうと、嵐は必死に泳いだ。

排水路の前では、その行く手を遮るようにスクリューのように高速で回転するファンから排出された水が激しい水流が起きていた。

ーー止まってねぇじゃん…え、マジか…これどうすんだよ……美波ぃ!?

 

 

"こちら京極。発電施設の前に着いた。今から潜入する…美波ちゃん、嵐の方はどうだ?セキリュティ解除までまだ時間がかかるようなら、急ぎ潜入しても仕方がない。今しばらくここで待機しておくが……?"

しかし、そんな京極からの連絡に美波は慌てふためいていた。

なぜなら、嵐に持たせた水深計の数値がすでに目標地点に達しているのを見逃してしまっていたからである。

ーーウソっ!?こんなに早く目標深度に到達してるなんて!早く排水を停止しないと嵐ちゃんが…!

美波は全集中力をパソコンの画面と指先へと注ぎ込み、地下施設のセキリュティへのハッキングを開始した。

"……ん?もしもーし?美波ちゃん?大丈夫か?"

「京極さん、ごめん!ちょっと黙ってて!」

"……え…"

訳もわからず叱られた京極は、もはや絶句するしかなかった。

「よし!いけた!」

排水路のファンと発電装置の動作を制御するセキュリティをわずか十数秒で破った美波は、排水をストップさせすぐに嵐のGPSを確認し、嵐の信号が動き出すのを待った。

しかし、嵐のGPS信号は一向に動き出さない。

ーーえ…そ、そんな……ウソ。まさか、嵐ちゃん…意識が……

すると、美波の前に置かれていた通信機から声が聞こえてきた。

"な、なぁ、美波ちゃん…俺はいつまで待……"

「…っ!?もう!京極さん!ちょっと黙っててっでば!」

再び叱られた京極。

"す、すまない…"

"ピピッ…ザーッ……おいコラ美波ぃ!テメェ!人を深海魚の餌にでもするつもりか!"

「あ、嵐ちゃん!?ホントにごめん!でもよかったぁ…生きてたんだね!」

よく見ると嵐のGPSは微妙に動いていた。

おそらく海中から、美波が停止させたファンの間を潜り抜け、排水路内部にある逆流を防ぐために海水をシャットアウトする部屋ーー設備点検の際に"泳いで"ではなく"歩いて"点検出来るように、排水路の排出口から奥は9割水を引いてしまうことができるーーから通信してきたのだろう。

"ああ…一瞬、居眠りしそうになったけどな…なんとか浸入できた。ここから一気に片付けるから、地上のほうは京極と連携して頼む"

「よかった…了解!」

美波はひとまず作戦の第1フェーズ完了に安堵し、ミネラルウォーターの入ったペットボトルに手を伸ばした。

 

ーー今から遡ること30分前

 

昭和基地 管理棟

AM 8:01

「時間がないので、簡単に説明するね。飛び立ったミサイルは今尚、ユーラシア大陸…モスクワ辺りを目掛けて依然、推進中。残り2時間ほどで到達することが予測されるので、それまでに何としてもミサイルを止めなければ終わり。このミサイルを無効化するには、ミサイルを発射した制御室のセキュリティを解除するしか方法がないの。セキュリティの解除方法は、この場所でパスコード入力の扉を開けて第1セキュリティの網膜と指紋の同時認証システムを通過した後、X線が張り巡らされたこの通路で第2セキュリティの骨格認証システムを突破する。それによりミサイル制御盤の部屋に浸入できるはず。網膜、指紋、骨格…すべて認証可能なのは米国大統領以下、国務長官と将軍の三名のみ。でも、ミサイルが発射されたってことは、おそらくデータは改竄されて、別の誰かのデータに変わってるはず。網膜も指紋も骨格も全てのセキュリティの対象データを書き換えなくてはセキュリティは破れないし、ミサイルの解除もできない。そこで、マクマード基地の電力供給を行っている水力発電の下…海底にあるサーバールームでのデータ入れ替えと同時進行で、セキュリティを突破していく…ここまでは分かるよね?」

「あ、ああ…」

嵐も京極も、いつものフワフワした美波とは180度逆の凛とした作戦概要の説明にただただ驚きを隠せない表情で傍聴している。

「データ入れ替えは嵐ちゃん、そしてセキュリティ突破を京極さんにお任せします。データ入れ替えは海底1,000mの場所にあって、潜っていくのはまず不可能。潜水艇を使って降下し、そこから排水路へと浸入するんだけど、潜水艇を出た瞬間、とてつもない水圧から体を守ろうと、酸素ボンベからは大量の空気が流れ込んでくるの。そこに含まれる微量の窒素…この窒素を大量摂取してしまうと、お酒に酔ったような症状が出て、下手すると意識を失う可能性もあるから、潜水艇を出てから排水路に浸入するまでは最低でも1分…それを超えると死の危険性が一気に上昇するから、嵐ちゃん気を付けてね。そして、排水路の入口…これは巨大なファンが回転していて、ものすごい勢いで水が排出されてるの。このファンを止めれば中へは容易に入れると思うから、ファンを止めて発電システムを一時的に停止すれば、あとは嵐ちゃんお得意の突き進むのみ!わかった?」

あまりにリスクの高い任務に嵐は唖然としたまま頷いた。

「そして、セキュリティ解除。これはおそらく敵も総力戦で防衛に入ってるはずなので、乱戦の中をいかに早く掻い潜っていくかが任務成功のカギになります。京極さんは強いから大丈夫ですよね!」

無茶振りに近い作戦内容に京極は固まっている。それを横目に、嵐は自分の任務はイージーなほうだったと少し安堵していた。

「そして、もう1つ注意点が。私が急遽作ったセキュリティ全書き換え用のデータ。これ1つで全部のデータを京極さんを認証するデータに書き換えることができるのだけど、さすが米国のサーバーだけあって、セキュリティはかなり強固なの。だから、これを嵐ちゃんが入れ替えたとしても、その有効時間はわずか5分…嵐ちゃんから無線で京極さんに伝達してから5分以内に、網膜・指紋の同時認証と骨格認証の2つのセキュリティ解除を行わなければ、セキュリティにロックがかかって二度とミサイルを止めることが出来なくなってしまうの…」

「オイオイ!マジかよ!タイトすぎんだろ!」

「だって、他に方法なんてないじゃない…やるしか…ないのよ」

「コホン…わかった。どのみち無謀な作戦だ。死ぬ気で挑ませてもらおう……」

 

 

ーーそして現在

マクマード基地 発電所前

AM 8:40

「京極さん、お待たせしました。今から嵐ちゃんがセキュリティの書き換え任務に入ると思うので、京極さんは今から急いで突入しちゃってください!」

「い、急いでって…了解」

とにかく美波の無茶な要求に応えるべく、京極は一気に駆け出した。

フェンスとチェーンに覆われた発電所の囲いを携行している日本刀で断ち切り、発電所の扉をこじ開け中へと潜入する京極。

ここまでは見張りもなく逆に不気味なくらいあっさりと潜入できた。

だが、京極の受難はここからだった……。


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