LASTING the SIRENS

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チャプター02 虚報

- 虚報 -


「えーっと、チョコサンデー1つとドリンクバーで!」

「……あ、じゃあ、俺もドリンクバーで。」

――って、“じゃあ”って何だ!“じゃあ”って!!何やってんだ俺…。

つーか、本当にチョコサンデー頼みやがった…どんだけ自由なんだよ。そもそも、コイツ本当にJACKALの人間か…?同じ支部の人間が大勢亡くなってるっていうのに、ケロッとした顔してチョコサンデー頼むなんて…気が触れてるとしか…。

「で、なんだっけ?中国系テロ組織のことだったよね?」

「ああ…そうだ。昨年末に起きた右京元長官を乗せた米軍輸送機ハーキュリーの爆破、そしてJACKAL本部、SECONDの爆破テロ…これらの事件にその中国系のテロ組織が一枚噛んでると思うんだ。」

「……それはないと思うなぁ…。」

「え、なんでだよ?!」

チョコサンデー顔から急に伏し目がちで神妙な面持ちに変わり、少しドキッとした…。

「嵐ちゃんの言ってる横浜の中国人たちの組織…って、たぶん“白虎(パイフー)”のことだと思うんだ。」

「俺は名前は知らないけど…そうなのか…?」

「んー私の知る限り、横浜を拠点にしている中国人の組織は一つだけ…つまり、白虎だけなの。」

よかった…重要な手掛かりが掴めそうだ。横浜の唯一の組織…それなら話は早い。そのカンフーだか台風だか知らないが、その連中を取っ捕まえて吐かせれば…

「ただ、白虎はテロ組織じゃなくて…しかも、すごく小さなグループで、貧しい中国人たちが本国を逃れるため密入国してくるのを斡旋していた組織なの。」

――そう、取っ捕まえて密入国の斡旋を阻止…って、え?!

そんなバカな…じゃあ、六波羅長官が言ってた中国系テロ組織っていうのは、一体何なんだ…。

「…ちょ、ちょっと待てよ…そんなはずはない。俺は六波羅長官に言われて、ここまで来たんだ…密入国の斡旋以外にも、陰で何かやらかしてるんじゃないのか?」

「残念だけど…それも、ない。先日、警察のガサ入れで白虎がアジトにしていた玄武楼っていう中華料理店から証拠が出たの。彼らは全員逮捕…じきに本国に強制送還されるはず…あ、チョコサンデー来た!」

すでに警察が逮捕…要するに、俺が探している組織は白虎ではない訳だ。フリダシに戻ったな…やはりここは横浜で調べるしかないか…ま、幸い、助手もできた訳だし…ニヤリ。

「ん…嵐ちゃん。その悪そうな顔…何か企んでるでしょ。チョコサンデーはあげないからね。」

「バカ!いらねーよ!」

コイツ大丈夫か…役に立つ気がしない…とはいえ、ワガママは言ってられないな。

「あ、そうだ…この辺にマン喫ねぇかな?」

「マン喫?どうしたの?こんな時間から漫画読みに行くの?あ、エロ漫画でしょ?」

「……なワケねぇだろ!アホか!…その…なんていうか…寝る場所が見付からなかったんだよ…。」

我ながら情けない…今頃、京極はフカフカのベッドで眠ってやがるんだろうな…嗚呼、腹立たしい。

 

 

同時刻
横浜市内 某ホテル32F スカイラウンジ

「へっぶしゅん!…失礼。」

「風邪…ですか?」

「いや…フッ、誰かが噂でもしてるんじゃないかな…。」

こんな時間だ…おそらく寝る場所がないとかで、俺への文句をぶつくさと呟いてる馬鹿がいるのだろう。

「しかし、まだ6月なのに、空調が効きすぎているような気もするな…。どうだ、よければ俺の部屋で飲み直さないか?」

「あ、いえ…私はそろそろ…息子が眠ったか心配なので…ご馳走様でした。」

「む、ムス…そ、そうか…ああ、今夜はありがとう。楽しかったよ。」

半年足らずとはいえ、女と無縁なムショ暮らしで勘が鈍ったか…?
まさか、若妻に声を掛けてしまうとはな…やれやれ。

 

 

「え…嵐ちゃん、泊まるとこないんだ?ウチでよかったら泊まってく?」

「ブホッ!!ゲホッゲホッ!」

「だ、大丈夫…?」

コーラが鼻へと逆流した。大丈夫な訳がない。いや、ただ噎せただけだから、呼吸は大丈夫だ。そうじゃない…女の家に泊まることが大丈夫なはずがない。ましてや、同じ組織の人間とはいえ、さっき会ったばかりの女の家など…極上の火遊び、坊主頭で申し訳ございませんでした的な…って、何言ってんだ、俺。落ち着け…落ち着くんだ。丁重にお断りすればいい…それだけの話だ。よし、そうしよう。

「い、いいのか…?」

バカか、俺は?!
バカカオレワー!?
ダメだ…絶対ダメだ。
俺にはマン喫のフラットシートがあるじゃないか…ベッドで寝たいなんて欲張っちゃいけない…きっとマズイことになる。いや、絶対マズイことになる。むしろ、マズイ光景しか目に浮かばない。
据え膳食わぬは男のなんとかってな…そうなるに決まってる。
あーそうさ、綾乃にバレたら殺される。

「うん、いいよ。あ、でも変なことしたら殺すから。(笑)」

ほら見ろ…どちらにしても死ぬぜ、俺。やめとけやめとけ…。

「バッ!んなことするかよ!」


…。

………。

「はい、到着!」

「お、お邪魔しまーす…。」

来てしまった…。
頼む、美波!俺を縛ってくれ!
いや、変な意味じゃなくて。
ダメだ…もう何を言っても変な方向にいってしまう…。
今夜のことはなかったことに…よろしく、俺の頭の中のケシゴム…

「…って、なんだこれ。」

「え?何が?」

「いや…ロフトベッドの下にも…ベッドがあるから…さ…ハハハ。」

「あーそれね、昔、カレがよく泊まりに来てたんだけど、そのカレがロフトベッド…っていうか高いところが嫌いでさ…買ってくれたの…。まぁ、今となっちゃ友達も泊まれるし、ベッド2つあるって、意外と便利なんだよね♪捨てなくてよかったぁ。あ、ちなみにカレとはもう別れたから、安心してね♪」

「そ、そうですか…ハハ。」

何て言い表せばいいのかな…この気持ち。安堵と無念がせめぎ合って……何でもない。

「じゃあ、私、お風呂入ってくるから。テキトーにくつろいどいて。」

お風呂…か。とりあえず、頭を冷やそう。ベランダに出て、明日からのことを考えるとするか。

 

――嵐ちゃん…か。あの人を失ってから7ヶ月…私もそろそろ新しい恋をしたって…いいよね。

 

 

同時刻
京都市東山区 嵐の部屋

“おかけになった電話番号は電波の届かない場所にいるか、電源が入っていない為、繋がりません”

「…はぁ。こんな時間まで何してんのよ…嵐。何かの事件に巻き込まれてなきゃいいけど…大丈夫かな。」

 

 

AM1:57
東京都目黒区 美波の部屋

――よし、とりあえず明日は玄武楼も含めて、中華街で怪しい中国人を徹底的に探すとするか。美波のやつ、そろそろ風呂から出た頃かな…。

ベランダの扉を左に引こうとしたが、頑なに動かない…これはまさか。視線をゆっくりと下ろし、恐る恐る鍵のある場所を見た。

――鍵かかってるし!!

慌ててガタガタと扉を揺さぶると、バスタオル姿の美波がカーテンをチラッと開けてクスクスと笑っている。

「おい!開けろって!ふざけんなよ!」

美波は笑いを堪えながら、ようやく鍵を回し解錠した。

「ごめんごめん!あまりにもベランダで黄昏てる姿が似合ってたもんだからさ…ついウッカリ♪」

「意味わかんねーよ!…ったく、もう寝るからな。」

「あれ、お風呂は?」

「着替えがないから、明日どっかのホテルで入るよ。」

「えー嵐ちゃん、きたなーい!てか、ホテルに泊まるの?こっちにいる間は、ずっとここに泊まればいいじゃん!ねぇ、そうしなよ!経費節約にもなるし!ね?」

とんでもないことを言いやがる。今日は持ちこたえたとしても、俺の理性があと数日のうちに崩壊するのは目に見えてる。京極じゃあるまいし、俺は綾乃に一筋でありたい。ありがたい申し出だが、それは無理な話だ…。

「と、とりあえず…じゃあ、風呂借りるわ…。」

「はーい、いってらっしゃーい。」

何故だ…即答…できなかった…。
いつもの俺なら、あっさり交わせるはずなのに…。こう、下心を覗かせない無垢な感じで言われてるような気がするからか、どうも上手く断れない…。

20分後――

「ぷはぁーいい湯だったぜ!サンキュ…って、寝てるし?!」

いや、これでよかったんだよ、嵐。これで下らない煩悩に悩まされることもなく、落ち着いて眠りに就けるのだから。明日は下手すりゃ中華街中を駆け回ることになって忙しくなる…さっさと寝よう。
下のベッドが空いている…今日のところは、ありがたく使わせてもらおう。
俺は常備灯を消してベッドに入り、ゆっくりと目蓋を閉じた…。

「……嵐ちゃん。」

耳元で声がした…気がする。
いや、空耳だろう…さっき無駄に意識しすぎたからな。

「嵐ちゃんってば。寝たの?フー」

「だっ!お前何考えてだよ!いきなり耳に息吹きかけんな!」

「隣で寝てもいいかな…?」

神よ…主は何故このような卑劣な試練を私めに下すのですか…。
男、嵐…このような少年マンガに出てきそうな夢のシチュエーションに負けるほど、意思は弱くない…はずだ!

「な、なんでだよ…それはマズイだろ…さすがに。」

声がした方を向くと、潤んだ瞳で美波はこちらを見つめていた。

「…怖いの。本部…そしてSECONDまでもが爆破されて…私たちだけが生き残って…それがテロリストに知れたら、きっと私たちも……」

――なんだよ。まともなこと言えるじゃねぇか…安心したぜ。

「……大丈夫だ…お前のことは俺が守るから。」

美波は静かに頷き、布団の中に入り込んで、俺の腕を掴んだ。
俺は再び目蓋を閉じて、やわらかな温もりと共に、次第に眠りに堕ちた…。

 

 

――ヒャハハハッ!…やっと大暴れできるぜぇ。チーズが仕掛けてあるネズミ取りってのは…たしか、玄武楼て店だっけ…ハッ、興奮してきたぁぁあっ!!

 

 

「…ねぇ、嵐ちゃん。……キスして。」

「バッ、バカっ!何言ってんだよ!」

「…どうして?私じゃ…ダメかな…?」

「そ、そういう訳じゃねぇけど…って違う違う!俺らまだ会ったばかりだろうが!?」

「だって…私、アナタに…嵐ちゃんに一目惚れしちゃったの…もうこの気持ち、どうしようもなくて…お願い…キスして。」

「な、なんでだよ…わ、わかった。キ、キスだけだからな…。」

「……へぇ、そうなんだ、嵐。アンタ、私に連絡もしないで、そういうことやっちゃうんだ…へぇ。」

「…へっ、あ、綾乃…?!な、なんでお前ここに…違うんだって!これには何て言うか、その、浅いようで深いような浅い理由が…」

「嵐ちゃん…彼女いたんだ…私と寝たのは、カラダだけが目当てだったんだね…。」

「えぇー?!おい、ちょっと待てよ…何言ってんの、お前…あれ、美波!?どこ行くんだよ?!おいー?!」

「嵐…言い訳なんて聞きたくない…アンタを殺して私も死ぬ。一緒にお姉ちゃんのとこ…行こ?」

「ちょ、ちょっと落ち着けって!バカなマネはよせ!な?話せばわかる!撃つな!」

「嵐…アンタ、言ったよね…撃てって。」

「いや、そりゃ半年前に撃ってくれって言ったけども!今じゃねーじゃん!待……」

Bang !!

 

AM 9:25

――とっくに気付いてたけど、縁起でもねぇ夢見ちまった…なんなんだよ、あの分かりやすい修羅場のシチュエーション。カンベンしてくれ…。

額の嫌な汗を拭い、目を開けた。ベッドには俺一人だった。悪夢のせいか、まるで無呼吸で血が通っていなかったような体に、ジワジワと五感が戻り始める。
すると、甘く…そして、香ばしい薫りが俺の鼻を掠めた。ゆっくりと体を起こして、部屋の中央にあるテーブルの方へと視線をやった。

「おはよう、嵐ちゃん。」

美波がテーブルの奥に肘をついて、こちらを眺めている。

「お、おはよう…」

イヤな夢のせいで直視できず、視線を落とし気味にして気付いた…目覚めたときの食欲を掻き立てる薫りの正体が。

――フレンチトースト…。

響子がよく作ってくれたフレンチトーストと同じく、パンの上にメープルシロップがほどよくかかっている。しかし、美波が響子との思い出の“おめざ”など知るはずがない。その偶然性に俺は少し、運命的なものを感じずにはいられなかった。

「早く顔洗ってこなきゃ、冷めちゃうよ?」

「あ、ああ……」

洗面台の鏡の中にいる自分に問い掛けてみた。
俺が綾乃に惹かれたのは…一体何が理由だったのだろうか。
思いがけない出来事によって失った響子と姿形が似ていたから?
響子という守りたいものを失ったことで、その矛先を見失っていた彷徨うベクトルが綾乃を見付けたことで、気持ちと共に綾乃に向いたから?
それじゃあまるで、響子の代わりでしかないじゃないか…。本当にそうなのか…綾乃を守りたいと思うのは、愛しているからなどではなく、ただ単に響子を守ることができなかった過ちを二度と繰り返したくなかったから…?

美波と出会ってしまったことで、俺の綾乃への想いは徐々にメッキが剥がれ、音もなく崩れ去ろうとしていた…。

――あ、ヤベ…綾乃に連絡するの…忘れてた。てか、電池も切れたまま充電してねーし…。


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