LASTING the SIRENS

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チャプター03 亡霊

- 亡霊 -


「俺、メシ食ったら、やっぱ中華街の玄武楼に行ってくるわ。調べるアテって言ったら、今のところ、そこしか思い浮かばねーし…。」

「…そうだよね。うん、わかった。じゃあ、私も一緒に行ったげる。」

「え、何でだよ?SECONDの跡地で探してた物はいいのか?」

そう…俺が昨夜、美波と出会った時、美波は灰と化したビルの瓦礫の中で何かを探し求め、あさって(荒らして)いた。

「あーあれね。いいのいいの!監視カメラの映像データが入っているブラックボックスを探してたんだけど…まぁ、今日からは警視庁の方でも本格的な現場検証が行われるだろうし、そっちの探索はプロに任せようかな…と。」

「そういうことか。そいつぁ助かる。じゃあ、さっさとメシ食ってチャイナタウン・デートに繰り出すか!」

美波と出逢った瞬間から、俺は心の奥底で何か湧き上がるのを感じていた。だが、はじめは“その何か”が何なのか、全く判らなかったし、深く考えようともしなかった。彼女に流されるままにファミレスへ向かい、自宅へ呼ばれ、ひょんなことから一緒に寝る羽目になった。もちろん、何もしちゃいない…はずだ。でも、徐々にこの心の奥底でくすぶっている“何か”に気付き始めた…俺はまだ、響子への呪縛から解かれていなかった。喪失感という爪痕を心に残した響子が、ふとした美波の仕草に重なって見えただけ。綾乃の時は違う…初めは雰囲気は違えど、瓜二つの容姿に心を惑わされもしたが、純粋に綾乃という人間に惹かれ始めた。だが、昨日の朝から衝撃的な出来事の連続のせいもあって、京都に残してきた綾乃のことを気に掛ける余裕もなく1日が過ぎたというのに、綾乃に連絡を入れることを躊躇している自分がいる。

――何を躊躇う必要がある…俺は綾乃を愛している。響子も美波も関係ない…綾乃に連絡しよう。

「悪い、出かける前にちょっと…電話してくるわ。」

「え?うん…あ。彼女でしょ?(笑)」

「ち、ちげーよ…こっちに来てから別行動してる相棒だよ、相棒!」

……俺は咄嗟に嘘をついた。しかも、皮肉にも京極をネタに使ってしまった。やはり…少し美波のことを意識してしまっているのか。どこかうしろめたい気持ちを腹の中でモヤモヤとさせながら、ベランダに出た。

「…もしもし、綾乃?ごめん。」

“嵐!?…大丈夫なの?JACKAL本部が爆破されたって、さっきニュースで見て…本当に心配してたんだから…今、どこ?何やってたの…?”

「心配かけて悪い…話せば長くなるんだけどさ…かいつまんで言うと…今、東京に来てるんだわ。本部を爆破した組織が横浜に潜伏してるとかで。だからさ、そっちに帰るまで、もう少しかかりそうなんだよ。」

“東京…?そういえば、そっちの支部も爆破されたって…。嵐、一人?とりあえず、私も今からそっちに向かうから、馬鹿な真似だけはしないでよね。”

「…い、いや、違うんだ。実は…京極と一緒で…。俺もはじめはビックリしたんだけどさ、まぁ、そのなんだ…俺をサポートするために仮釈放されたとかで…。京極のことはもちろん許すつもりはねぇけど、長官から受けた最期の任務だし…。それに、お前をまた危険な目に合わせる訳にはいかない。テロ組織の規模もハッキリとは判ってねぇし、危険すぎる。俺なら大丈夫。だから、もう少し待っててくれよ。この任務が片付いたらすぐにお土産買って帰るからさ。」

“……京極って、あの京極…?そ、そうなんだ……わかった。くれぐれも気を付けて…死んだら殺すから。”

「ハ、ハハ…お前それって……。じゃ、そろそろ行くわ。またな。」

“うん、気を付けてね。バイバイ。”

ケータイをポケットにしまい、ベランダのガラス戸に手をかける……開かない。

「またかよ!」

ガラス越しに部屋の中を見ると、口元に手を当てて含み笑いしている美波が見えた。

――んのヤロォ…ガキの悪戯か!

キレかかっている俺の表情を察知し、美波はガラス戸の鍵を解錠した。

「…お前、次やったらガラス割るからな…。」

「ごめんごめん、そんなに怒らないでよ〜。あ、ていうか、次があるってことは、またウチに来るってことだよね?やった♪」

「…え、いやまぁ…それは…。まぁ、こっちにいる間は、世話になってやるよ…。」

「フフフ…素直じゃないね。よし、じゃあ、そろそろお仕事と行きますか!横浜に向かお♪」

正直言うと、敵が潜伏しているかもしれない中華街に非力な美波を連れていくことは、気が進まなかったが、土地勘のない俺一人よりも、やはり管轄である横浜に詳しいSECONDの人間がいてくれることのほうが助かるし、これ以上、卑劣なテロの被害を出さないためにも、一刻も早くテロ組織を殲滅させる必要があった。そんな俺の心配は余所に、美波は鼻歌まじりでデート気分のように浮かれている。

――響子も…こんな感じでよく鼻歌を歌っていたな…。大丈夫…今度こそ俺が守ってやればいいだけだ…問題ないさ。同じ過ちはもう…二度と繰り返させはしない。

 

 

 

AM 9:53
横浜市内 某ホテル ロビー

「ありがとうございました。お車でのお越しでしたよね?エントランスを出て頂いた前のロータリーにお停め致しますので、外でお待ち下さいませ。」

「…ああ。ありがとう。」

――お見送りは男…か。

ホテルを出て、ロータリーに車が現れるまでの間、煙草に火を点けた。
関東支部、SECONDの跡地…何か手がかりになるような物が出ればいいのだが。嵐のヤツはどうするのだろう。そもそも爆破があったことを知っているのだろうか。頼みの綱だったSECONDでの情報もゼロに等しい。だがアイツのことだ…おそらく何があっても自分からこちらに連絡してくることはないだろう。まぁ、こちらはこちらで独自に調べてみるか…。

 

 

 

「で、中華街にはどうやって行くんだ?」

「……嵐ちゃん。私が来なかったらどうするつもりだったの…?」

明らかな呆れ顔で美波はこちらを見た。

「そりゃあ、あれだよ…あれ、あの、そう、ケータイのGPSでだな…」

「わかったわかった。もういいよ。私が意地悪な質問しちゃったね…ごめんね、おじいちゃん。」

「誰がおじいちゃんだよ!?」

ツンデレの綾乃と違って、美波は響子と似た空気感を漂わせている。しっかりしているのに、どこか抜けている…天然なところも含めて、しばしば守ってやりたくなるような衝動に駆られる。まぁ、響子はこんなに俺をイジるようなことはなかったが。美波という存在が数秒、数分経つごとに俺の中で広がりつつある…3年間という静止した時間を呼び戻してくれた綾乃のことなど、もはや遠い過去の繋がりだったかのように、頭の隅へと押しやられようとしている。どうして人の心はこんなにも脆いのだろう。俺はまた…心に裏切られようとしていた。

 

PM 1:26
横浜中華街

一歩足を踏み入れればそこは、神戸の南京中華街とは違った、一回りほど大きな区画に大陸独特の雰囲気のある建物が並んでいる。路地裏を覗けば、ジャッキーが軽い身のこなしで出てきそうな街並みは、ひと度日本にいることを忘れてしまいそうになるほどだ。

「玄武楼はたしか…あの角を曲がったところだよ。」

――玄武楼…密入国者の斡旋を行っていた組織の根城。はてさて、鬼が出るか蛇が出るか…。

「……美波、出来る限り俺が守るけど、それでももし危なくなったら、すぐに逃げてくれ。いいな?」

「…う〜ん、何もないとは思いたいけど、でも私…嵐ちゃんを置いて逃げることは出来ないかも…。」

そんな健気なことを言われても…美波に何かあったら、今度こそ自分自身が許せなくなる。何としても守り抜くしかない…か。

「わかった…じゃあ、絶対俺から離れるなよ。」

「うん♪」

美波は満面の笑みで俺に答えた。美波は俺のこと…どう思ってるのだろう。組織壊滅の危機に瀕してるというのに、俺一人でこんな甘酸っぱい気持ちになってるなんて…JACKALの皆、すまない。
と、今は懺悔してる場合じゃないな。気を引き締めて、突入するか。

極彩色の鮮やかな木彫りの舞い龍や瓦が彩る立派な門を抜け、朱色と翡翠色した木造の建物が姿を現した。建物の中はよく見えない。ご飯時だというのに、賑わっているどころか、人の気配が全くしない…やはり美波の言う通り、警察にしょっぴかれて、もう誰もいないのだろうか。
扉の取っ手に手を掛けた時点で、怪しげな予感は確信へと変わった。

――開いている…。

「あれ?開いてるね…ラッキーじゃん♪このまま忍び込んでみようよ。」

警察の捜査が行われたのなら、すでに閉鎖されていてもおかしくはないはず…しかも、人の気配は依然として感じられない。…にも関わらず、扉は容易に俺たちを迎え入れた。ラッキーなんかじゃない…きっとこれは……罠だ…!!

 

 

 

――SECOND…たしか、中央大通りをこのまま行けばあったはずだが…フッ、ご丁寧に分かりやすい目印があるじゃないか。

歩道に沿って、パトカーやら業務的な雰囲気のハイエースが5、6台連なって路駐している。あそこでまず間違いないだろう。
最後尾のパトカーの真後ろにぴったりと駐車して、ビルを仰ぎ見る。爆発の威力と被害の凄惨さがヒシヒシと伝わってくるような光景だった。とりあえず、少し話を聞いてみるか。入口を封鎖していた2名の警官に話しかけた。

「すまないが…少し、このビルのこと…聞かせてくれないか?」

「なんだ、君は…ここはまだ関係者以外は立ち入り禁止。マスコミおよび一般人への情報開示もまだ許可がおりてないんだ。立ち去りなさい。」

――やれやれ…日本の警察っていうのは、どうも融通が利かない。ここはやはり一撃必殺、防衛省の名の元に…ん、待てよ…俺、JACKALのバッジ…もう持ってねぇじゃん……。

「聞こえなかったのか?一般人は立入禁止だって言ってるだろ…さぁ、帰った帰った。」

「防衛省JACKAL本部、コードネーム“Kyogoku”…暗殺者だ。中に入れてもらえないだろうか。」

一か八か、バッジ無しで交渉を試みることにした。防衛省の名に気を取られてくれるといいのだが。

「防衛省…JACKAL?生き残りはいなかったと聞いていましたが…では、念のため、バッジをお見せ願えますか?」

くそっ!! 律儀なヤツめ…こんなところで厄介事に時間を割いてる暇はないというのに。やむを得ん…実力行使といくか…いや、落ち着け。ここで何もせずに強制送還なんてことになれば、面倒どころの騒ぎではない。もうひと粘りしてみるか。

「急な事態だったもので、バッジは自宅に忘れてきたのだが…無理だろうか。」

「当たり前だろ。これ以上、警備の邪魔をするなら、公務執行妨害で逮捕するぞ!さっさと…」

「ちょっと…何を揉めてるの?どうかした?」

俺に対する警官の怒りを切り裂くように女が声をかけてきた。反射的に女の方に視線を送る。

「おまっ…!?」

その女を見て、俺は驚愕した。

 

 

 

キィィィ…

木造の扉を開けると、長い時間閉ざされたままだったのか、軋んで乾いた音を立てた。昼間だというのに、中は窓からの射光以外の明かりがなく、窓辺には舞い上がる埃が光に照らされダイヤモンド・ダストかのようにキラキラと輝いている。店内は閉店した時のままのようで、椅子が円卓の上に乗せられ、食器類には布巾が被せてある。
俺は銃を携え、美波の手を掴んで引いた。

「……嫌な予感がする。絶対に俺の傍を離れるなよ。」

「…え、う、うん。」

人が侵入した形跡はなさそうだが、この静けさ…何か匂う。一歩、また一歩と歩みを進め、4歩目の床を踏みしめた時に鶯張りのような音が床から鳴り響いた瞬間、中国の祭りでおなじみの爆竹のような連続する激しい破裂音とともに天井にぶら下がっていたであろう幾つもの飾り燈籠が頭上から降り注いできた。
咄嗟に美波を抱き寄せ、隅の方へと素早く転げる。飾り燈籠は円卓や椅子を巻き込んで、床を突き破りそうな勢いで地面に叩きつけられ、さらに埃が舞い上がる。辺り一帯は砂埃で霧がかったように半径30p以上先の見えない視界ゼロの戦場へと化した。

「…いてて……大丈夫か?」

「…う、うん、なんとか…。」

すぐさま立ち上がり、辺りを警戒するも、砂埃と窓からの射光が乱反射を起こして何も見えない。

「ヒャッハァーーッ!たまんねぇんなぁ!!」

突然、上の方から狂喜に満ちた声が響く。相手は吹き抜けの2階にいるのだろう。今ここで、声を出したら、居場所を悟られ、狙い撃ちされるだけだ…相手が見えない1階ではこちらの分が悪い。とりあえず、この砂埃が静まるまでは身を隠すのが賢明か…。
飾り燈籠の被害を受けなかった近くの円卓の下に、美波を屈みこませた。

「やぁっぱり来やがったなぁ…JACKALめぇ…ヘヘヘ。罠にかかったのは…有名人の嵐ちゃんかなぁ?」

――俺の名前を知っている!? 誰だよ…薄気味悪い野郎だぜ…。

埃の舞いが落ち着いて徐々に視界が晴れてきた。俺は静かに壁づたいに歩いて2階からの死角になるであろう場所で待機した。砂煙越しに人影が揺らめく。その場で下にいる俺たちを探しているのか、動いている気配はない。今ここで影に向かって撃てば早い話だが、他にも仲間がいるかもしれない…消すのは、知っていること全部、吐かせてからの方がよさそうだ。それにしても、先程の燈籠が落下してきた時の音から察するに、おそらく相手はマシンガンを所持している可能性が高い…。速攻で戦闘不能にさせないと面倒なことになりそうだ。円卓下の美波はかなり不安そうな顔でこちらを見つめている。その顔じゃ、せっかくの美人が台無しだ…とりあえず安心させてやるのに、俺はウインクして余裕そうな表情を見せてやった。そして、念のため、ジェスチャーと口パクで注意を促した。

(そこで…待っててくれ…)

美波は理解してくれたのか、大きく首を縦に振ってくれた。これで心置きなく戦える。

――さぁ、ジェット・リーでもキム・ジョンナムでも何でも出てきやがれ…俺を敵に回したことを、死ぬまでのほんの数十分間、後悔させてやる。

人影を隠していた煙も落ち着いてきた…俺は影に向かって銃を構え、影の手元あたりに照準を合わせようとした…が、銃へと視線を移す際、僅かに相手の顔が俺の視界を掠めた。

――え…ちょ、ちょっと待て…今の…そんなバカな!?

銃へと向かうはずの視線は、再び引き返し、2階にいる男の顔をしっかりと捉え直した。

「お、お前は…ジェイッッッ!!」

思わず叫んだ。叫ばずにいられる訳がない。ハットにサングラス、そしてロングコート…約半年前、俺が頭部を撃ち抜き、ビルの8階から転落した男が無傷で立っているのだから。

「どうして…どうしてお前、生きてるんだよ!! あの展開からして普通死ぬだろ!! なんでだよ…」

こちらの姿は死角になっているはずだが、Jはサングラス越しにギロリと目玉を動かして、俺が立っている辺りを凝視した。

「そんなとこにいたのか…ヘヘヘ、お前やるじゃん。こりゃ楽しいゲームになりそうだ。もう一匹の獲物も合わせて、二人ともジワジワ殺ってやるよ…ヒャハハハッ!!」

――チッ、相変わらず狂ってやがる…やはり美波を連れてきたのは間違いだった…クソッ!

半年前…Jという男は確かに死んだはずだった。遺体こそ見てはいないが、それにしても、脳天を撃ち抜かれて生きている人間などいるはずがない。そして、更に困ったことに、俺の予想は誤っていた…Jはマシンガンを両手に二丁携えている。あの狂暴性に二丁のマシンガン…こちらは美波というハンデを抱えながらの応戦…さすがに無傷じゃ済まなさそうだ。

「バーカ。死に損ないのテメェなんかに殺られるほど、か弱くねーよ。もっかい地獄に送り返してやるから、さっさと逝きやがれ!」

とは言ったものの、認めたくはないが、半年前、京極の協力があって仕留めることができた相手だ…いや、実際はこうして目の前にいるのだから、仕留め損なった訳なのだが。
とりあえず、美波の安全を優先しよう…隙を作り出し、その間に美波を店の外へと逃がそう。このままでは不利すぎる。

 

 

 

 

「アナタ…京極……なの…?」

SECONDのビルのから出てきて、俺と警官のイザコザを割いた人物は……半年前まで“本命”として交際していた、大阪府警、捜査一課の警部補、鴉真希だった。

「ど、どうしてお前がこんなところにいるんだよ…。」

自分で言うのも何だが、普段は沈着冷静なほうだ…しかし、泣く子も黙る鬼の元カノにこんなところで会うと、動揺を隠すことなど不可能に等しい。むしろ、動揺して当然…蛇に睨まれた蛙とはこのことだ。

「それはこっちのセリフよ…アナタ…今、NYのシンシンにいるはずよね?重犯罪者がどの面下げて、この治安の良い日本の首都をほっつき歩いてるのかしら。みんな、彼の身柄をすぐに確保して。危険人物よ!」

「えっ!?ちょっと落ち着けよ…なんでそうなるんだよ…こっちにも事情ってモノがあるんだよ!聞けって!」

入口を警備していた警官と、金魚の糞みたく鴉の後をついてきた刑事二名が俺に飛び掛かってきた。

 

 

 

 

とりあえず、このまま1階にいても狙い撃ちされるだけだ…まずは2階に上がって……
あれこれと作戦を練っている最中だったが、再びけたたましい銃声とともに弾の薬莢が絶えず落ちる金属音が鳴り響いた。その音に反応した時には、既に次の轟音が鳴り響いていた。2階を見るとJの姿がない。1階に来られるとマズイ…このままでは、美波を巻き添えにしてしまう。早急にヤツの次の行動に備えなければ。
移動しようと一歩踏み出した時点で、死角にしていた壁から大きな衝撃音と破片が吹き飛んできて風穴が開いた。俺は煙が立ち込める風穴の奥を見つめ、静かに立ち止まる。その刹那、煙を突き破り、両手ともにマシンガンを構え、不気味な笑みを湛えたJが、俺の目の前の風穴から飛び出してきた。

――モーションがデカすぎてバレバレだっつーの…!!

俺はすかさず銃を構え、Jの脳天を目掛けて発砲した。飛び出した勢いのベクトルとは正反対に走る撃たれた衝撃で、勢いは相殺され、Jの体は空中で一瞬止まり、その場に落ちた。

「…呆気ねぇな。二度も頭撃ち抜かれてんじゃねーよ。」

「なぁーんてなぁ!」

――なんだと…!?

目を見開き、上体を起こしたJは、暴れるかのようにマシンガンを乱射し始めた。咄嗟に地面に倒れ込み被弾を免れたが、柱や窓などが尽く粉砕され、木片やガラス片が雨霰のように降りかかってくる。

――美波は…無事だろうか…。

伏せたままの姿勢で、視線だけを周辺に彷徨わせてみる。頭を抱えて、強く目を閉じ怯えているようだが、無傷のようだ。
すると、銃声が止んだ。俯せていた状態から仰向き、周りの様子を確認しようとした時だった。右手に握っていた銃を蹴り飛ばされ、俺に跨がって、Jにマウントポジションを取られた。

――しまった!?

「よぉ。やってくれんじゃねぇか…アタマ、痛かったぜぇ?ハットの中に特殊合金を仕込んでなかったら、逝っちまってたなぁ…おー怖い怖い。」

Jは目を向いて俺を見下し、ニヤニヤしている。

「何が目的だ…爆破テロもお前の仕業か…?」

「…さぁな。そんなことより、お前、嵐ってヤツだよなぁ?で、そこで踞ってるのは…どちらさんかな?」

「彼女は関係ない!ただここに案内してもらっただけだ!」

とうとう美波の存在に気付かれてしまった。なんとか気を反らなければ…。

「殺るなら俺を殺れ!俺が目的だろ!!」

「ヘヘ…ヒャハハハッ!カッコいいねぇ…正義の味方みたいじゃぁん。じゃ、あっちのお嬢さんから殺っちゃおっかな。」

必死のあまり、言葉よりも先に拳が出た…が、あっさりと止められ、こめかみにマシンガンを突き付けられた。

「オイオイ…大人しくしとけってぇ。お楽しみは最後に取っておきたいんだよ…一緒にあの女がグチャグチャになるのを見て楽しもうぜぇ?」

――最悪だ…もはやこれまでなのか…美波、すまない。俺は…

歯を食い縛って目を閉じ、無慈悲な現実から逃げるように美波の方角から顔を背けた。しかし、その時だった。2階の割れた窓から幾つもの物体が投げ込まれ、飛来してきたその物体はカランと金属音を立てて地面に落ちた。その音に俺は目を開いて、落下した物体の方を見た…。

――あれは…


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