LASTING the SIRENS

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チャプター04 逮捕

- 逮捕 -



「チッ…お客様のご来店か。せっかくとっておきの情報を教えてやろうと思ったのになぁ…まぁ、次会ったら教えてやるよ。じゃあな…ヒャハハハッ!」

投げ込まれた物体から、大量のガスが噴出し始める。店内は一気に白んでいき、Jが長いコートの裾を翻し、不気味な笑い声と共に去っていくのが煙越しにうっすらと見えた。

――助かった…のか……?

安堵の息を漏らす間もなく、投げ込まれた催涙ガスの影響で、目に激痛が走り、激しく噎せ始めた。そして、滲んだ視界には、入口の扉を突き破り、ガスマスクに武装した人間が数名と、同じくスーツ姿にガスマスクを装着した出で立ちの男が一人、突入してきたように見えた。

「我々は警視庁公安部、外事第三課、および公安機動捜査隊。巡回中の警官より要請があり、現場収拾のため突入した。君か?ここで銃を乱射していた輩というのは。」

「ゴホッゴホッ…ちょ、とりあえず、このガス…ゴホッ…なんとかしろよ!」

助かったのはいいが、苦しくて会話もままならない。武装した人間の一人が円卓の下の美波を見るなり、ガスマスクを与え、介抱しているようだ。それなのに、俺には変な疑いをかけてきた。相変わらず世間的に嫌われ者ってか…?

「君たち…ここは閉鎖中の場所です。入口に“KEEP OUT”のテープが貼ってあったのが見えなかったのかな。」

「はぁ!? ゴホッゴホッ!ちょ、だから、とりあえず…ゴホッゴホッ…マスクよこせって!俺はJACKAL…ゴホッ!…の人間だっつーんだよ!」

スーツ姿の男が憎たらしく問い掛けてきているが、こっちはそれどころではない。死にはしないものの、さっきから耐え難い激痛に苛まれているのだ。

「JACKAL?まぁいいでしょう…詳しい話は署でじっくり聞かせてもらいます。この男とそこの女性を連行しろ。」

訳がわからん…令状も無し、任意同行でもない…署で話を聞くだと?…ふざけんなよ…テロリストが逃げたっていうのに、お門違いもいいところだ…全くコイツら税金泥棒ときたら。
しかし、そんな心の叫びも空しく、俺と美波は武装した連中に両脇を掴まれ、半ば強引に店の外へと連れ出された…。

 

 

 

「な、なんなんだ…コイツ…強すぎる……。」

とりあえず、襲い掛かってきた警官二名、刑事二名は片付けた。保釈中にも関わらず警官に手を出す羽目になるとは…全く先が思いやられる。そして、残すは…。

「京…こんなことをして、タダで済むとは思ってないでしょうね。アナタがここで抵抗したところで、何も変わらないわよ。悪足掻きはそこまでにしなさい。」

そう言うと、真希は静かに銃を構え、俺に照準を合わせた。
鴉真希…大阪府警でも指折りの頭のキレる刑事。その真希が本気でキレたら、どれだけ恐ろしいかは付き合っていた俺が一番よく理解している。だが、こちらにも事情ってモノがある。

「お前の部下に手を出したのはやり過ぎた…すまない。だが、聞いてくれ…俺は何も観光や遊びでこんなところに来てる訳じゃない。防衛省の認可も下りている事情があってのことだ。お前が俺を逮捕しようとしているのは、本当に正義の為なのか…?真希、お前の私情じゃないのか…?」

真希はただただ黙って銃を構えている。
なるほど…問答無用という訳か。しかし、このままでは、俺は真希を殴り飛ばさなければならない…いや、そんなことできるはずがない。となれば…

「…ったく、解ったよ。好きにしろ。」

俺は観念し、銃を捨て、真希の前に両腕を差し出した。

「賢い選択ね。昔のよしみで、警官たちに手を出したこと…それに関しては目を瞑っておいてあげる。さぁ、行くわよ。」

こうして、俺は真希たちが乗ってきたポルシェ・カイエンに乗せられた。こんないい車に、このような形で乗ることになるとは…残念だ。叩きのめした刑事の一人が恨めしそうに俺を睨みながら、運転席に着く。本来ならば、もう一人の叩きのめした刑事と真希の間に挟まれるのがお決まりの被疑者護送のパターンだが、真希の計らいでもう一人の刑事は助手席に腰を下ろし、後部座席に俺と真希が座る配置となった。

「で、もう一度聞くけれど、どうしてアナタがこんなところにいるのかしら…?まさか本当に脱獄したんじゃないでしょうね?」

発進して間もなく真希が声を殺して訊ねてきた。何だかんだと言っても、やはり“ここにいる理由”が気になっていたようだ。

「フッ…相変わらずだな、真希。まぁ、あれだ…東京に来たのは、ちょっとした野暮用を頼まれたんでな…それで依頼主に保釈の便宜を謀ってもらった訳だ。」

そう、俺がNYのシンシン刑務所から出てきたのは、JACKAL現、最高権力者、六波羅長官に米軍輸送機の爆破テロ犯を嵐と共に見つけ出し、消すよう命じられたのが事の発端だ。獄中にいた俺に六波羅長官からもたらされた提案書はこうだった。

”貴君が本任務を完遂した場合、我々、防衛省は米・連邦議会に貴君へと課せられた刑期の短縮を図る”

禁固73年じゃさすがに死ぬまで檻の中である可能性が高いからな…俺は迷わず、この依頼を受けることにした。そして間もなく釈放された俺はNYを発って日本に着いた後、まずは自宅へと向かった。
風呂に入って髭を剃り、服を着替え、コンビニで買ってきたエクレアを食してから、駐車場に寄ってたっぷりと埃を被った愛車のレイチェル(S14)を丁寧に洗車した。レイチェルが本来の輝きを取り戻し、ようやく俺は本部へと向かった。久々の自宅でマッタリとした時間を設けてしまったせいか、六波羅長官との約束の時間には大幅に遅れた。そして、御堂筋を南下している際、中央大通を越えたぐらいでアクセル越しに地鳴りのようなものを感じた。本部からそう遠くない場所にいた為、俺は本部が業火に包まれる様を遠くに目撃していた。異常な事態に、アクセルを踏み込んで本部前にやってきた俺は、爆破テロにより大混乱に陥った心斎橋で、今ではすっかり嫌われちまった元・相棒の嵐と再会した…。

「なるほどね…それなら話は早いわね。アナタの言う野暮用って、要するに爆破テロのことでしょ?私達も、その爆破テロのことを追ってるの。京、アナタには私達の捜査に協力してもらう…異存ないわね?」

「オイオイ…やけに強引だな。……まぁ、別に構わないがな。ただ二つほど気になることがあるんだ…そもそも、お前、なんで警視庁にいるんだよ?それに、どうして一課が爆破テロのことなんて捜査してるんだよ…そういうのは公安の専門だろ?」

「そうね…基本的にはその通りよ。ただ、この事件は少し特殊なの。半年前に起きた右京仁の武力濫用、綾部涼介の容疑隠蔽…それらを突き止めた私達は彼を逮捕し、米国に身柄を引き渡すことになった。……そのはずだった…でも、彼は飛び立った米軍の輸送機と共に、そのまま横須賀の空で藻屑と消えた。これがどういう意味か解る?日米間の条約と治外法権により、米国は捜査はできても、そのテロ犯に制裁を下すどころか、捕まえることすらできないの。そして、米・国防総省より日本政府に正式な依頼が来た…爆破テロ犯の身柄を早急に確保し、その身柄を米国へと引き渡すようにと。総理はまだ不安定なJACKALではなく、警察庁にテロ犯の逮捕を指示した。その指示を受け、総監および上層部は右京事件を担当した私を、タイミング良く昇格という名目で総監のお膝元である警視庁へと異動させ、捜査に起用し、一課で捜査を行う結論を下した…ってワケ。どう、ご理解頂けたかしら?」

なるほどな…半年経った今でも、俺たちは未だ右京絡みの怨念に悩まされてるって訳か…。それにしても、噂では聞いていたが、アイツも最期はテロによって抹消されちまうなんて皮肉なものだ…あっけない幕切れだったんだな。昔のダチだ…少しは同情してやるとするか。
それにしても、真希たちの捜査に協力するというのは、幸運だったかもしれない。これは俺や嵐が思っていたような単なる爆破テロ事件ではないようだ…嵐と別ルートで調査するには的確なチームだろう。

「わかった…俺にいい考えがある。捜査に協力しよう。」

「フフ…助かるわ。でもまさか、アナタと共同戦線を張ることになるとはね。私のボディーガード宜しく頼んだわよ。」

「どんな共同戦線だよ…共同っていうか、それじゃ俺はまるで単なる捨て駒のオプションじゃねぇか。」

「あら…何か問題でも?」

なにはともあれ、こちらは調査の足場が固まってきたが…アイツの方は大丈夫だろうか。真希たちの反応からして、嵐がSECONDに現れた感じはなかった…変なことに巻き込まれてなければいいが。

 

 

 

護送車に乗せられた俺と美波は、手錠を架けられ横並びの座席に対面で座らされ、静かに車の発進を待つこととなった。俺の真横に機動隊の一人を監視役として残し、残りの面々はスーツ姿の男と一緒に、俺たちを確実にクロにするため、現場を物色して行ったのだろう…俺たちを待たせたまま現場検証とはいいご身分だ。

「美波…悪ぃ。危険な目に遭わせただけじゃなく、逮捕までされちまって。」

「…う、うん。仕方ないよ。私達は何もしてないんだから、なんとかなるって!」

一難去ってまた一難…まさか、あのJが生きているなんて…アイツがあの場所にいたということは、今回の爆破事件に関係しているのは間違いなさそうだ。しかし、あんな狂ったヤツが一人でこんな大掛かりなテロを実行できるだろうか。となると、バックに防衛省にコネを持つ大物が潜んでいる可能性がありそうだが…JACKALを邪魔だと考えている大物…前線の鉄砲玉である俺には、皆目見当もつかない。
そんな思案を回らせながら、ふと周りを見回した。監視役の機動隊の一人が、俺の事など目もくれず、正面にいる美波の事を凝視していることに気付いた。見たところ、まだ若く普通の青年だが、その視線は少し異様な雰囲気を醸し出していた。

――なんだコイツ…いくら美波が可愛いからって、見すぎだろ。気持ちわりぃ。

当の美波は、そんな熱視線に気付くこともなく、かすかに不安の色を漂わせながらも、ぎこちない笑顔で俺の視線の方に応えた。そんな健気な美波に声を掛けようと口を開くと、それを遮るかのように扉が開いた。

「お待たせしました。さぁ、出発しましょうか。」

先程はガスマスクで顔が判らなかったが、おそらくさっきの憎たらしいスーツ姿の刑事であろう男が乗り込んで、美波の横へと腰掛けた。残りの機動隊の面々も次々と乗り込んできて、俺の周りを固めるかのように、こちら側の座席に横並びに座り始めた。

「お嬢さん、君もJACKALの人間なのかな?」

「…え、あ、はい…銀座にあるJACKAL関東支部、SECONDの所属です…。」

「ふむ…JACKALの人選はルックスも考課の対象になっているのかな?目の前の男前にしてもそうだが、みんな粒揃いだ。まぁ、実力が伴っているかどうかは別として…ね。」

「くだらねぇ話してねぇで、お宅の署でさっさと話終わらそうぜ。こっちは誤認逮捕で無駄な時間割いてられるほどヒマじゃないんだよ…。」

このスーツの野郎…どうも気に食わねぇ。インテリぶりやがって。デカじゃなきゃ、絶対にブン殴ってた。チラチラと美波を見ながら話しやがって。

「威勢がいいですね。どこかで見たことがあると思っていましたが、君は…たしか半年前の右京事件に大きく関わっていた…名はたしか、アライ……」

「アライじゃねー!アラシだ!」

「あぁ、そうそう…嵐君。フフ…ウワサ通りのじゃじゃ馬ですね。申し遅れましたが、私は警視庁公安部、外事第三課の鞍馬です。いくら防衛省の名を冠したJACKALの人間とはいえ、警視庁の管轄にある閉鎖中の建物に不法侵入し、銃器乱射の罪は見過ごす訳にはいきません。これは誤認逮捕などではなく、正義の名の下に行われた正当な逮捕です…あしからず。」

周りの機動隊のヤツらが笑いをこらえている…俺のことを笑っているのか、もしくは表情一つ変えないでサディスティックな物言いの鞍馬が可笑しいのか。とにかく、車内は不愉快極まりない空間だった。すぐに警視庁に着くだろうか…。早くしないと、着くまでにコイツら全員を殴り倒してしまいそうだ。

 

 

 

「着いたようね。とりあえず、形式上、取り調べはさせてもらうわよ。」

「ああ、別に構わない。」

車を降り、警視庁の取調室へと進んでいく。税金のチカラはすごい…2年前に警視庁の大改修が行われているのをニュースで見かけはしたのだが、最先端の技術と、洗練された内外装のデザインはまるで映画に出てくるような近未来の世界を彷彿とさせる。セキュリティーシステムもおそらく堅牢無比な要塞のようにアリんこ一匹侵入を許さないレベルのものだろう。

「着いたわよ。京、珈琲でいい?」

なんて気の利く取り調べなんだ…コーヒーを提供してもらえるとは…まぁ、さすがに全ての犯罪者にこうではないと思うが…贔屓めなのは、あくまで俺が捜査に協力する立場だからだろう。俺は頷き、取調室に入った。
裸電球むき出しの照明に、コンクリートの壁…湿っぽい部屋にぶちこまれるのを想像していたが、やはり違った。この建物にそんな部屋がある訳がない。壁もデスクも真っ白だった。例えるなら、エステサロンの待合室のようだ。純白の部屋を邪魔しないアクリル製でスケルトンの椅子に掛ける。そういえば、内装に目を奪われていて気が付かなかったが、いつの間にやら真希のお供の二人の部下――俺が殴り倒したヤツら――の姿が見えなくなっている。

「お待たせ。さ、手短に済ませましょ。」

差し出されたカップを手に取り、口元へと運ぶ…芳醇で香ばしい香りが鼻腔をかすめる。なんてことだ…自販機で紙コップに注がれるような代物かと思っていたが、とんでもない。ついさっき、バリスタが俺のために淹れてくれたような香り高さだ。どうなっているんだ…。

「さっそくだけれど、京…アナタは今、誰を追っていて、どこまで掴んでいるの?そして、SECONDの跡地で何を探そうとしていたの?」

「ちょっと待て…真希、それ、取り調べじゃなくないか…?」

それは明らかに、共同捜査前の情報共有会のような問いだった。俺は別に構わないが、真希の立場上、それでは周りに示しがつかないのではと、気に掛かった。

「いいのよ。過去の出来事よりも“これからのこと”の方が大事ですもの。さ、聞かせて頂戴。」

「そ、そうか…。さっきも話したと思うが、俺は六波羅長官の便宜により、ムショを出た。そして、JACKAL本部に来るよう命じられた。しかし、俺の任務はあくまで嵐のサポートということだった。それ以外は聞かされていなかったが、本部に向かっている道中で本部が吹き飛んだ…それで改めて尋常ではないことが起きているのだと悟った。」

「嵐君…なるほど。でも、その肝心の彼の姿はないけれど、どうしたのかしら?」

「もう知っていると思うが、4年前、俺が綾部涼介であった頃、俺は嵐を暗殺する為に来日した。そこで俺は狙いを外した…そして、その結果、アイツの最愛の恋人を殺してしまうこととなってしまった…。その事実を知って、アイツは俺を許すことができなくなった。共に行動するなんて絶対に無理なんだとさ…。」

いくら人格が真逆だったとはいえ、涼介は今も俺の中に眠る狂気。アイツの響子への入れ込み様は、綾乃に会った時の動揺っぷりを見れば、容易に判る。その最愛の女を一瞬にして奪ったんだ…許せるはずがない…いや、許しを乞うつもりもない。ただ、せめて償いたい…俺にはこんなやり方しかできないが、この件にさっさとカタをつけて、アイツの前から姿を消そう…。

「アナタたち、そんな複雑な関係にあったのね…ということは、嵐君も独自で爆破テロを追っているのかしら?」

「ああ、今回の任務の実行者はアイツだからな…昨夜、横浜の桜木町あたりで降ろしてから、それ以降、今のところ連絡はない。アイツのことだ…まだ横浜のどこかをほっつき歩いてるんじゃないか。」

 

 

 

「へっくしょい!!」

うっかり右向いてくしゃみをかました。目を開けると右隣の機動隊員が燃えたぎる怒りを宿した眼光をこちらに向けている。

「……すんません。」

…仕方ないだろ。両手は拘束されているし、真正面のインテリにぶっかけたら、それこそ侮辱罪とか言って、更に罪をかぶせてきそうだし…。それにしても、この鞍馬とかいう刑事、やたら美波に絡んでやがる。美波の迷惑そうな表情が読み取れねぇのか?痛々しいヤツめ。

「何をジロジロと見ているのですか、嵐君。おかしな気は起こさないで下さいね。君たちが不甲斐ないせいで、こちらも相継ぐテロ行為の対応やらで疲れているのですよ。」

はいはい…そいつぁ悪うございましたね…でもなぁ、そのおかげで普段お前らがお目にかかれない美波みたいなベッピンと話できてるんだから、ちょっとはありがたく思えよな。そんなことを頭の中で叫びながら俺は目を逸らした。
さて、それにしても…これからどうしたものか。手掛かりとなる玄武楼では、結局何の手掛かりも得られなかった。唯一の点を除いては。
J…死んだはずのヤツがなぜ、あんな場所に…。それに最後に言い残した”とっておきの情報”って…どんな内容だったのだろう…まるで俺を待ち構えていたかのような口振りだった。俺が来ることを事前に掴んでいたのか…となると、やはりJACKALにスパイがいたのか?しかし、一体誰が…京極?いや、まさかな。さすがのアイツもそこまで腐ってないよな…そう思いたい。
それにしても、鬱陶しい刑事に逮捕された状態ということさえ除けば、よくよく考えてみると、警視庁に連れて行かれるのはラッキーだった。少なくとも、今の俺たちよりは多くの情報を持っているに違いない…Jのこと、爆破テロ犯のこと、そこに行けば何か判るかもしれないな。

Trururu....

車内に着信音が鳴り響く。携帯を取り出したのは、正面のインテリだった。

「もしもし、鞍馬です。お疲れ様です。…はい、それが何か?…え…なぜそれを…ええ、身柄は確保してますが…対策本部…そうですか、はい、わかりました…。では後ほど。失礼します。」

対応から察するに、電話の相手は上司だろうか…何か気に食わない指示でも受けたのか、電話中にみるみる顔が不愉快そうになっていた。ザマァみやがれとやや勝ち誇った気分でいると、インテリが電話をしまい、俺に向かって面倒そうに告げた。

「どうやら君たち、一課が追っているテロの件と深く関わっているようだな。先にあちらで君たちのツレが待っているそうだ。一課から“丁重に”連れてくるようにと要請があった。そこの君、手錠を外してやってくれ。」

機動隊員は何かあったのかと言わんばかりに怪訝そうな色を浮かべている。

「そりゃどうも…お宅らの捜査で冤罪が出なくてよかったな。詫びのひとつでももらえると、尚ありがたいがな。」

鞍馬は表情も変えず、静かに目を逸らした。あんな涼しい顔してても、きっと腹の中じゃ苛立ちで煮えくり返ってるに違いない…いい気味だ。そもそも、証拠もなしに現行犯とかいう理由で任意同行なんて、融通が利かなさすぎるんだよ。昔の俺なら、確実にこのインテリくるくるパーマをブン殴ってたな。俺も大人になったもんだ。
それにしても…警視庁で待ってるツレって…どう考えても京極だよな。どういうつもりなんだ…余計なことしやがって。でもま、このインテリを黙らすことができたことに関しては、感謝しとくとするか。

 

PM 6:24
東京都千代田区 警視庁

「到着しました…さぁ、降りて下さい。」

鞍馬は機動隊員を忙しなく護送車から降りさせ、俺と美波には降りるよう“お願い”してきた。警視庁の領内に足を踏み降ろす。機動隊員たちは下車したその足で歩みを止めず、ぞろぞろと建物内に入って行った。その行列を眺めながら、俺は何か違和感を感じた…が、その違和感が何なのか全く判らなかった。特に気に掛けることもなく、俺は美波を連れてインテリに尋ねた。

「で、どこに行きゃいいんだよ?」

「……今から案内します。」

ポーカーフェイスもできないのか…それでも刑事かよ。さっきと変わらず、今も不愉快そうな様子が顔に色濃く残っている。
それにしても、警視庁なんて初めて来たが、とんでもなくキレイだ。ブルーのLEDが埋め込まれたガラス張りの廊下なんて、SFの世界でしか見たことがない。そう考えると、JACKAL本部は見劣りするシケた建物だったな…吹き飛んでしまったのに、本部自体には何の感慨も沸かないのがいい証拠だ。

「悪い、ちょっと便所に行きてぇんだけど…」

「突き当たりを右に曲がったところにあります。人を待たせているので。早く済ませてもらえると助かります。」

はいはい…まったく…愛想の欠片もないヤツだ。

「美波さん…って言ったかな?君は聞くところによると、SECONDの唯一の生き残りなんですよね。」

「……え、はい、そう、みたいです…。」

「気の毒でしたね…ところで、実は一課から連れてくるよう要請があったのは、嵐君だけなんですよ。連れてきてから、君にこんなことを言うのは申し訳ないのですが…君はただ被害者というだけで、今回の件に深くは関わってない。そうでしょ?」

「そ、それはまぁ…そうですけど…でも!私もJACKALの人間なので、嵐君に協力したいんです!」

「そう…ですか。ただ、一課の連中が、凶悪なテロリストに立ち向かうのに、君のような非力な人間の同行を許可するか…難しいところですね。」

「そ、そんな…」

「君は非力とはいえ、JACKALの人間…いつ凶悪なテロリストの標的にされるか判りません。そこで、君の身柄は我々、公安部で保護しようと思うのです。我々には、さきほどの機動隊もいる…JACKALの面々よりも君の身の安全も保証できます。あんな頼りにならない男なんかと一緒にいるよりも、我々といる方がずっと安…」

「イヤです!嵐ちゃんは私を守るって約束してくれた…例え、危険が伴っても私は嵐ちゃんのその言葉を信じます。」

「可哀想に…ヤツの言葉に騙されているとも知らずに、疑おうともしないなんて、君は純粋なんですね…。でも、君はアイツと一緒にいれば、必ず危険が及びます…下手すれば命の保証さえ…ワガママを言わないで、我々と一緒に来てくれませんか…?」

「可哀想なのはアナタの方です…そんな歪んだものの見方しかできないなんて…」

ん…?美波のヤツ、あんな真剣な顔して、インテリと何を言い合いしてるんだ?

「こちらが優しくしているのをいいことに、頭に乗るんじゃない!私は君の身を誰よりも心配しているんだ!だいたい…」

「お待たせ。どうしたんだよ…大声なんか出して。何があったか知らねぇけど、男が女にそんな食ってかかるなよ。さぁ、さっさと案内してくれ。」

「…ゴホン、美波さん、取り乱してしまい失礼しました。ご案内します…こちらです。」

おちおちトイレもしてられないな…だいたい大丈夫か、コイツ…なんか目付きがオカシイぞ。今度、美波におかしなマネをしたら、絶対にブッ飛ばす。

(美波、大丈夫か?何かあったらすぐに言えよ?)

(うん…ありがとう。大丈夫だから。)

それからしばらく歩き、俺と美波は警視庁、捜査一課の待つ “JACKAL爆破テロ緊急対策本部”の扉の前へとたどり着いた…。

 

 

――やはり、美波は僕を必要としている…どいつもこいつも、美波のことを何も判っちゃいない。僕はね…君のことは何でも知っているんだ。必ず守ってあげるからね…泉莉。死が二人を分かつまで……


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