Phantom of Diva

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チャプター00 イントロダクション

- 悪夢 -


2018年 10月13日 午前1時すぎ

京都市、東山区。
月灯りが天高くから降り注いでいる。
耳を澄ますと小路を挟んで流れる小川のせせらぎ。
そんな閑静な住宅地の外れで、一発の銃声が鳴り響いた。

手の平を紅く染めた男と、胸を紅く染めた女、そして──



2015年 春
東京都新宿区にて演説中の日本国首相が壇上の爆破によって暗殺された。
その翌日、成田空港で発見された主犯のテロリスト、王 鷲烙は警官の連行に抵抗した為、その場で間もなく銃殺される。

米国の911グラウンド・ゼロをはじめ、国家を脅かすほどの過激さを増してきた近年のテロ。テロ対策に関して他国よりも遅れをとっていた日本でも本格的な対策が求められることとなった。
しかし、日本国憲法第九条、戦争の放棄、戦力の不保持、交戦権の否認を掲げる日本にとって、現時点での外国人テロリストたちの武装勢力に対抗する術は持ち合わせていなかった。
ただ、世論はいつかの米国のように、テロ組織への制裁および指導者の暗殺を望んだ。
その結果…支持率の低迷で、世論に左右され続ける閣僚たちは、国内に潜伏するテロリスト根絶のみを目的とした特殊暗殺部隊の編成を発表した。

防衛省は米・国防総省の支援に基づき、日本初の対テロ暗殺部隊JACKAL(Japanese ACKnowledged Assassination Legion)を創設。
人員は警視庁特殊急襲部隊SATや陸海空の自衛官から優秀な人材が引き抜かれ、総勢134名が渡米し暗殺者となる為の特殊訓練を受けたのだった。

2013年を境に東南アジアから、そして内閣府の予想より17年も早く米国を抜いてGDP1位に躍り出た中国から、日本へと急激に流れ込んできた外国人たち。そういった外国人の中で、国内外問わず過去に犯罪歴がある者は、すべてJACKALの標的とされた…。


2018年 7月1日
FIFAワールドカップ、ロシア大会に日本国民が熱狂している最中、JACKALに所属する暗殺者の一人、“嵐”というコードネームの男は、兵庫県…神戸ウイングスタジアム2階、東側のコンコースにいた。

スタジアムの大型LEDスクリーン、ウイングビジョンに映し出された日本代表の試合映像を見ながら、熱い声援を送るサポーターたち。
外で歓声が鳴り響く中、南西のコンコースを歩く東南アジア系の外国人。
外国人は自動販売機の前で立ち止まり、辺りを見回した。
背負っていた大きなリュックを下ろし、中から煙草のパッケージほどの大きさの箱を取り出すと、それを自動販売機の取出口に入れようとした…その瞬間。
──ゴールが決まったのか、多少の音では掻き消されてしまうくらいの、さらに大きな歓声が鳴り響いた。


2018年 秋
セミダブルのベッドの上で目を覚ますと、隣の部屋から食欲をそそる薫りが漂ってきていることに気付いた。
寝室の扉を開けると、彼女がテーブルの上に朝食を並べている。
「あ、おはよう。」
こちらを向いて彼女はあどけなさの残るスッピン顔で満面の笑みを浮かべた。
「私、今夜ライブだから昼には出るね。出番はたしか…21時半くらいだったかな。…待ってるね。」

──微弱な音量で 女性の歌声とメロウで切ないリズム&ブルースがどこからともなく聴こえる。一体どこから…

目を開くとそこは…いつもの汚い部屋だった。
昨晩飲み過ぎたせいか、ソファの上で寝てしまっていたようだ。
音楽はデジタルオーディオから流れている。
現実で耳に入ってきた音楽が夢の中でも聴こえる…誰しも少なからず経験のあることだと思う。
壁に掛かっている日捲りカレンダーは 2021年の11月21日(土)…昨日のままのようだ。
またあの日の夢を見ていたらしい。
──もう三年か。


AM 09:47

少し急いだ方が良さそうだ。
嵐は軽く顔を洗って服を着替える。
ソファに落ちてた拳銃を拾い上げ、玄関へ向かう。

シュッシュッ
──点かないな。
エレベーターを降りた嵐は、煙草をくわえ廊下を歩きながらライターを擦っている。
シュッシュッ
──点けって。
アパートを出て2〜3歩。
左を見ると、黒く平たい車が横に停車している。
静かに下り始めるパワーウインドウ。
「なに?」
「ナニじゃねぇよ。」
──下ネタかよ。
半分ほど開くと窓の奥から下ネタと思われるイントネーションで返答が返ってきた。
「くだらねぇこと言ってないで、さっさと乗れ。21分の遅刻だぞ。」
たしかに遅刻だ。でも、あの夢のせいなんだよ…そう言い返そうかとも思ったが、嵐は結局、溜め息だけを漏らしてS14シルビアの助手席に腰を下ろした。
京極は斬り込むように鋭くシフトノブを操作し、猛烈な勢いで後輪をホイールスピンさせると、二人を乗せたS14は激しく白煙を巻き上げ低音のエギゾーストノートと共に走り去っていった……。

──ポテンシャルが高いか知らないが、馬力の良さも相まって相変わらず乗り心地は最悪だ。
アスファルトの凹凸を完全再現するかのように、車内は凹凸に反応して揺れる。揺れる。揺れる…。


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