Phantom of Diva

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チャプター04 理由

- 理由 -


「お前、さっきの醜態はなんなんだよ。」

本部ビルを抜けた車内の第一声は、京極の説教から始まった。
フロントガラスに写る自分の姿に話し掛けているかのように、京極の視線はこちらを向くことなく前を見つめている。
京極は常に冷静沈着を信条としており、あまり怒る男ではなかったが、今日はどうやら命の駆け引きがあったこともあり、声をやや荒げていた。
──響子が…生きていた…これは夢なのか?アイツ、怒ってたな…。
視点が定まらない。鼓動を全身で感じ取れるくらいに脈が激しく波打っている。
“あの日”と似たような感覚に陥っていた。

「おい、聞いてんのか。」
いつもはあっけらかんとしている嵐がこんなにも酷く動揺していることに、京極自身も内心、穏やかではなかった。
今は何を言っても反応がないと思ったのか、京極は終に問い詰めることを止めた。
──女に気をつけろ。ボスの予言通りという訳か…いずれにせよ、あの女との関係性だけでも嵐に吐かせねばならんな。

どれくらい時間が過ぎたのか。どれくらいの距離を走ったのか。京極は嵐を帰そうとはしなかった。
それが真相を吐かせる為なのか、気遣ってのことなのか。
「……てたんだ。」
突然、嵐の唇が僅かに動いた。しかし、言葉というにはあまりにも乏しく、それはもはや単なる音でしかなかった。
「何だって?落ち着いてもっぺん言ってみろ。」
「……似てた…」
「誰に?」
「……3年前死んだ女に…」
先程に比べ、言葉を発するようになってきた。京極は糸を紡ぐように嵐の言葉の断片を拾い集め頭の中で整理する。
「なるほどな…お前、そんな簡単なこと、もっと早く言えよ。そんなの撃てねぇに決まってるじゃねぇか。」
女が絡むと士気が鈍る――そこに共感を得たのか、硬かった京極の表情から思わず笑みがこぼれた。
──3年前に死んだ女に似ていた…か。しかし、どういう訳か俺もあの女に見覚えがある。嵐の女に会ったことはないはずなのだが…。


その頃、綾乃は──
JACKAL本部ビルの地下2階、資料室にいた。
──所属番号 JC084 ARASHI-嵐-…あの時のリアクションは何だったの…わからない。3年前の記録は…あった。

2018年7月某日、兵庫県神戸ウイングスタジアムの爆破テロを阻止。実行犯のテロリスト日系ベトナム人 ペドロ・ジェイナムの暗殺に失敗。その3ヶ月後、逃走していたP・ジェイナムが京都市東山区の某所にて嵐を襲撃。交戦の結果、銃殺に成功。本件はこれを以って解決とする。

──これだけ……?
他にも、所属する暗殺者の台帳のような冊子や暗殺したテロリスト達の記録など何冊にも渡り読みあさってみる。
──これは…嵐と一緒にいた男…JC007 Kyogoku-京極-…ん?どうしてこの男、何の記録も残ってないの……。
京極のページにはコードナンバーとコードネームのみしか記されておらず、その他の情報欄は白紙になっていた。
──京…極……まさかとは思うけど、念のため連絡しといた方がよさそうね。
資料を乱雑に段ボールへと片し、資料室を後にした。

本部ビルを出て地下鉄の乗り場へと御堂筋を歩く。
秋から冬への移り変わりを知らせるような寒気の影響により、本格的な冷え込みが始まり、街頭に等間隔で聳え立つ銀杏は一つ…また一つと葉を降らせている。 黄色の絨毯で敷き詰めた歩道は街を彩るのに一役買っていた。
メインストリートにはスーパーブランドや百貨店、一筋裏には軒並みアパレルショップが立ち並ぶアメ村がある為、通行人の多くはファッションに敏感な若者達だった。同年代くらいの女達がショッパーをいくつも手に持ち歩いているのが目につく。
綾乃はライダースJKTにカットソー、それにダメージ加工のあるショートパンツ。周りに比べ薄着でラフ…お世辞にも色気のある格好とはいえなかった。
──服か…最近買ってないな。この3年弱、精神的にそんな余裕なんてなかったし…これが終われば…私も……。
どこか寂しげな表情を浮かべ、綾乃は地下への階段を下りて行った。



──あれあれぇ?あの美味しそうなケツは…綾乃チャンぢゃぁーん。こんなとこで会えるなんて運命感じちゃうねぇ…へへへ。
雑居ビルの屋上で双眼鏡を覗き込みニヤついているのはJ。
街を行く若い女ばかりを眺めては悦に浸っていた。
「最近の娘はよく発達してるねぇ…あー新鮮なモモが食いてぇなぁ。あと何時間くらいこうしてなきゃなんねーんだろ…早く帰りてぇなぁ。」
一人でボヤきながら、つい先程組み立てたコンピューター制御システムを備えたスタンド付きライフルをゴシゴシと磨く。その動きは、当人がJということもあってか、どこか卑猥だった。



「で、その女はどうして死んだんだ?」
京極は可能な限り、嵐から情報を引き出そうとしていたが、ようやく話し始めたのも束の間、嵐は再び表情を曇らせ、塞ぎ込んでしまっていた。
「……やめてくれ…俺が…俺が…」
取り乱すことはないが、情緒はかなり不安定な様子だ。今日はもう限界かもしれない…そう感じた。
──俺が…って、まさか自分が手に掛けたってことじゃねぇだろうな……ったく厄介だな。それにしても今日は頭痛が酷い…そろそろ帰るか。
ハンドルを切り返す。京都の最北端、経ヶ岬を目指し走らせていた道を折り返すことにした。寒さで外気は澄み渡っている。地球が丸いことを再認識できるゆるやかな曲線を描く地平線、凛とした海、誰もいない浜辺が延々と続く日本海沿い。外では薄ら今年初の粉雪が舞い始めていた。

──俺ガ…コロシタ……。


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