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最初で最後となる楽曲を遺して
この世を去った悲劇の歌姫 ―― Kyo-Co.

インディーズシーンで、抜群の歌唱力と抽象的で切なさの漂うリリックが
人気を博していたKyo-Co.こと 朱雀 響子。
ついに大手レコード会社との契約を交わし、メジャーデビューの楽曲を発表した
1週間後…嵐とともに事件に巻き込まれ、帰らぬ人となってしまうのだった…。

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歌詞カード

+ BIOGRAPHY +

朱雀 響子――幼少の頃に父の仕事の関係で米国 ニューヨークに渡る。
幼くして、病気で亡くした母の代わりに家事をこなす忙しい毎日を過ごしてきた彼女には、ある夢があった。
いつか人の心を動かすことのできる プロのアーティストになるという夢だ。
音楽関係の仕事をしていた父の影響で、彼女の環境は常に質のいい音楽で溢れていた。
やがて、彼女はある日を境に日本へと帰国し、念願の音楽活動を始めるのだった…。

エピソード0 追憶

- 追憶 -



2016年――
19歳の時、当時交際していた彼氏の暴力に悩まされていた響子は
友達に連れられて偶然入ったBarで、ある日本人と出逢った。
昨年、日本の機関で新しく創設された対テロリスト暗殺部隊JACKALの
特殊訓練を受けるべく渡米していた暗殺者の候補生 松尾 新士(嵐)だった。
そこで意気投合した二人は、たびたびこのBarで会うようになる。
悩み事や彼氏の暴力の相談をするうちに、次第に嵐に惹かれ始める響子。
そして嵐もまた、異国の地で地獄のような過酷な訓練を終えた後の楽しみとして
響子との居心地のいい時間に救われていた。

やがて、嵐の訓練も最終日を迎える。
訓練を修了した嵐は、翌日の帰国を前に響子に告げた。

「一緒に…日本へ帰らないか?」

静かに頷く響子…その夜、二人はNYでの最後の思い出にと車を借りてドライブへと出掛けた。
時間が深夜2時をまわる頃、セントラルパークの傍に停車して、二人は街灯に照らされている緑を眺めていた。
すると、夜中にもかかわらず、セントラルパークの中から数人でバカ騒ぎしながら歩いている男たちが見えた。
手には飲みきりサイズの瓶ビールを携えている…酔っ払いのようだ。
…しかし、その男たちを見た瞬間、響子が急に怯えだした。
男の方も二人の姿が見えたらしく、始めはカップルを茶化すつもりで野次を飛ばしながら近寄ってきたが
響子の姿を目視した時点で、男は血相を変えて走ってきた。
まだ事態がはっきりと飲み込めていない嵐だったが、響子を守るため咄嗟に外に出て応戦しようとする。
しかし、ドアに手をかけた時点で、あることを思い出した。

“特殊訓練を受けた者はいかなる場合においても、犯罪者以外の一般人に手を出してはならない。
そういった事件が確認された場合、資格は即刻 剥奪され、組織追放とする。
また、場合によっては、検察に身柄を引き渡し、罪人として扱われることもある。”

明日の帰国を目前に、馬鹿な真似はできない…嵐は唇を噛み締めながらエンジンをかけ
アクセルを全開に踏み込んで、急発進した。
男は逃げようとする二人の車に向かって、手にしていた瓶ビールを投げ付ける。
無言が支配する二人の車内…トランクに当たって粉砕する瓶の痛々しい音。

ひとまず男を振り切った二人はミシシッピ川付近で車を停め、外に出た。
嵐は響子に尋ねる。
どうして怯えていたのか。何故、男はいきり立ってこちらに走ってきたのか。
あの男は、響子の彼氏だった…。
響子はこの時、ある決意を胸に固めていた。

家族にも彼氏にも知られず、日本に行こう…日本で嵐と新しい人生を歩もう…と。
そのことを嵐に打ち明けた響子はそのまま自宅へと戻り
荷物をまとめて嵐の泊っているホテルへと向かった。

翌日、二人は駆け落ちをするかのようにひっそりとNYを後にした。
帰国後、嵐と同棲。響子はライブハウスでアルバイトをしながら、念願の音楽活動を始める。
儚さを漂わせた愛らしいルックスと、そのルックスからは想像できない力強いヴォイス
そして類稀なる音楽センスにより地元で瞬く間に噂は広まり、オーディエンスを集める
アーティストとして、一躍有名となった。
響子が参加するイベントのチケットは即座に完売…プロ顔負けの人気を博す。
しかし、順風満帆な日々はそう長くは続かなかった…。

2018年――
帰国から2年が過ぎた秋のことだった。
これまで幾度となくレコード会社からのスカウトはあったものの
音楽性の違いから、そしてビジネスライクな方針に違和感を感じていた為
その誘いを断り続けていた。
しかし、響子の音楽に対する想いを理解し、その想いを尊重したいという
大手レコード会社の猛烈なラブコールにより、ついにメジャーデビューを決意する。

──2018年10月13日 午前1時すぎ

月灯りが天高くから降り注いでいる。
耳を澄ますと小路を挟んで流れる小川のせせらぎ。
東山三条の入り組んだ路地にある契約駐車場。
富裕層が暮らすような新築マンションが建ち並ぶ一方
知恩院など情緒漂う建造物も顔を覗かせる閑静な街並みのこの一画で
静かに銃声が鳴り響いた。

見えない敵からの静かな銃撃に、駐車場はすでにゲリラ地区さながらの緊迫感に包まれていた。
ライブハウスでメジャーデビューのイベントを終えた響子を乗せて帰路についたのも束の間
車外に出た途端、この状況に陥った。
車を降りた拍子に、膝で丸まっていた愛猫が飛び出して行ってしまった。
普段は大人しい子なのに…こんなことは初めてだった。
夜でも映える白猫とはいえ、辺りにはまともな照明もなく
ほぼ暗闇に近い視界で、猫の姿を目視することは困難だった。
響子は車と車の隙間で屈んでいる。
次の銃撃が反撃のチャンス…
反撃の機会をうかがっていた嵐は決意を湛えた瞳で銃のスライドを引いた。

──カコン

空き缶の転がる音がした。
次の瞬間──
立ち上がり銃を構えた嵐の前に、響子が現れた。
何が起きたのか解らない嵐を余所に、響子は膝から崩れ落ちる。
異変を感じた嵐はすぐに響子の元へと駆け寄る。
響子の胸元が、まるで薔薇でも咲いたかのように深紅に染まっている…
必死に呼びかける嵐の声に、うっすらと瞳を開けた響子は弱々しく告げた。

「また…逢えるから……」

響子の最期の言葉に涙していた嵐だったが、響子を抱きかかえている際に被弾していた。
もはや悪夢なのか現実なのかもわからない朦朧とした意識の中
被弾のダメージにより、嵐もその場で意識を失くしてしまう。
幸せだった二人の未来は、一人の男の手によって幕を閉じたのだった。

3年後――
未だ失意から立ち直れないでいた嵐の前に、亡くなったはずの響子と同じ顔をした女が現れた…。

ーFin−

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