Ark makes GENOCIDE

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チャプター21 失敗

- 失敗 -


1月17日 オーストラリア
ビクトリア州 メルボルン港
コンテナ区画
AM 8:15

米軍の最新型潜水艦シーウルフV。
その巨体が水面から半身ほど覗かせた状態で岸壁に突っ込んで減り込んでいた。
まるで銀色の巨大な銛が突き刺さっているかのように。

「それにしても…どうして軍用艦がこんなところに突っ込んできやがったんだ…気味が悪いな。オイ、ジェイク!お前このまま船体を渡って、ちょっと中、見てこい!」

「えぇっ!?ちょ、主任!カンベンしてくださいよ…俺、来月、結婚式なんすから…」

「オイオイ、そんな不吉なフラグ立てんなって…」

コンテナ区画の作業員たちは突然の"招かざる客"に不安を隠しきれないようだが、どこか不安を通り越して変なテンションになりつつあった。
その時だった…軍用艦の搭乗口が開いた。

「うおっ!?やべぇ!!開いたぞ!!みんな逃げろぉーーっ!!」

ビビっていた割に咄嗟の事態に直面し、作業員たちの安全をと主任のマスタングが指示を出した。
慌てて作業員たちは走り出し、マスタングもまた必死の形相でその場から逃げ出した。

 

 

 

時は戻り、現在ーー

 

千葉県
成田国際空港 第2ターミナル
1月17日 PM 12:49

「おい…JACKALの奴らが来たぞ。早すぎやしないか?それに何だあの漆黒の機体は…。いつから尾行けられてたんだ…一人は俺をブタ箱にブチ込んだ馬鹿力の女と…もう一人は見たことがないが…なあ、知ってるか?」

「んあ〜?ああ、あれはぁ…俺をブタ箱から出したバカな女に似てるなぁ〜。てことはよぉ…俺らの因縁の相手が揃ってお出ましってワケだぁ…いっちょここで殺っちまうかぁ…いや、ここじゃさすがに無理かぁ!ヒャハハハッ!!」

展望デッキで深草と美波の様子を見ている高瀬川を他所に、Jはソフトクリームを食べながらふざけてはしゃいでいる。

ーー血への飢えに関しては俺も人のことは言えないが、コイツは頭のネジが足りなさすぎて狂ってやがる…

「で、これからどうすんだよ…運転見合わせももしかしたら、アイツらが仕組んだことなんじゃないのか。だったら、強硬手段で飛ぶしかないだろ。」

まともな返答は得られないだろうと思いながらも、高瀬川は怪訝そうな顔でJに尋ねる。

「そうだなぁ…俺はお前さんをハスラーのとこに派遣した奴に雇われてぇ〜そいつにお前を連れて来いって言われてるからなぁ〜連れてかなきゃ報酬もらえねぇし…でもなぁ〜せっかくのお仕事なんだからよ、もうちょっと大暴れしなきゃ面白くもねぇよなぁ〜。久しぶりのシャバなんだからよぉ…やっぱお前が見てた追っ手の女どもをここらで血祭りに上げてからにするかぁ?」

ーーさすがにここでは目立ちすぎる。首都高とは訳が違う…だが、このイカレ野郎の言う通り、あの追っ手に尾行けられたまま依頼主の元に戻る訳にもいかない。さて、どうしたものか。

高瀬川は煙草に火を点けて、フーッと一息吐き出した。

「あの追っ手を消すのは俺も同感だ。だが、ここではさすがに大勢の目もあるだろう…面倒ごとはごめんだ。さっさとハイジャックして発つのが賢明だろう」

ソフトクリームのコーンをバリバリと噛み砕き、先の方まで口の中に放り込むとJは立ち上がり、コートを翻しいつもとは違ったトーンで呟いた。

「…ンなもん、ここにいる奴ら全員皆殺しにすりゃあ早ぇだろうが。もしくは、あいつらの乗ってきたあの黒鷲みたいな機体を追ってこれねぇように爆破して木っ端微塵にするかだ」

「皆殺し?バカを言え…この空港に何人いると思ってるんだ。万は下らないぞ。ダイナマイトが数十個でもあれば話は別だが、俺たちだけのチカラで皆殺しするのに何時間かかると思ってるんだよ。それに、あいつらの機体を爆破するにも爆薬なんて持ってないだろ…」

「ははぁ…やっぱりかぁ。しょーがねぇ、ここはそそくさと逃げちまうか。拙者はお先にドロンさせて頂くでゴザル!ってやつだ!ハハッ!」

ーーこのイカレ野郎は何を言ってるんだ。シリアスになったかと思えば、すぐにふざけやがって…やれやれ…ったく。どうして俺がこんな気狂いと共に行動しなきゃならんのだ。

「とりあえず、さっさとここを発つぞ…いいな?」

「へいへい…っていうか、なぁんで助けられた側のお前さんが仕切ってるんだよぉ?まぁ俺はラクできるしいっかぁ〜」

滑走路にいる美波と深草、二人の姿を一瞥して不敵な笑みを浮かべながら、Jはロングコートを翻して高瀬川の後に続くようにその場を去って行った。

 

 

「……ん?」

「……?どうしたんですか、深草さん?」

「いや、なーんか今、誰かに見られてたような気がしたんだけど…気のせいかしら。まだ頭がグラグラするせいかも…」

この後、Jたちを見つけたら逮捕劇になるっていうのに…この人、大丈夫なのだろうか…苦笑いを浮かべながら美波はそう思うのであった。
深草の体調も御構いなしに、美波は先にターミナルビルへと入っていった。

「もう、美波ちゃんったら、冷たいんだから…まぁでも悠長にはしてられないわね。私もそろそろシャキッとしますか」

美波が第2ターミナルビルへと入って辺りを見回した矢先のこと。
上の階が何やら騒がしい様子で、それに気付いた美波はすぐさまエスカレーターへと向かい、駆け上がって3階のチェックインカウンター前にやってきた。
出国審査口のさらに奥のほうから悲鳴が聞こえ、美波はチェックインカウンターを飛び越えて、搭乗口へと向かおうとしたその先に、警備員が数名倒れており、JがCAを人質に搭乗口前に差しかかろうとしていた。

「…っ!?待ちなさい、Jッ!!」

「おおやぁ?いつぞやはブタ箱から出してくれてありがとうよぅ…おかげさまで今はこんなにステキな毎日だ!ヒャハハハッ!!」

Jは掴んでいたCAを手放し背中を蹴飛ばすと、数発、CAを背後から撃ち抜いた。

「アディオス・アミーゴ」

緊急防火扉のスイッチを押したJはハットを手に取り、紳士然とした綺麗なお辞儀をして見せた。その姿を遮るかのように数枚の扉が勢いよく閉まっていく。

「J!!なんてことを……っ!救急車を呼んで!早くっ!!」

美波はすぐに深草へと電話し、現状を伝えた。

滑走路が見渡せるガラス壁の先には、Jが乗り込んで間もないというのに、航空機が早くも動き出し第2滑走路へと入ろうとしていた。

「くっ…ダメ、間に合わない…っ!」

美波はただ航空機が離陸準備に入るのを見ているしかできなかった。
連絡して間もないというのに、第1ターミナルにいた深草がとんでもない速さで美波のところに辿り着いた頃には、航空機は轟音で走り出して地上を飛び去るところだった。

「……してやられたわね。一般人にも被害が出てしまったようだし、アイツらを甘く見ていた私達の完全なるミスね」

肩を落とす美波の頭をポンポンと叩き、悔しさを噛み締めた面持ちで深草も閑散とした滑走路を見つめていた。

「さあ、落ち込んでばかりはいられないわ。民間の旅客機がハイジャックされてしまった以上、第一級テロとして、私達がなんとしてもこれ以上の被害を食い止めなければならない。行くわよ」

「い、行くってどこに…」

「決まってるじゃない、船橋にある自衛隊の習志野分屯基地よ」

深草は美波の手を握りしめて、グイグイと歩き出す。

「じ、自衛隊ってどういうことですか?ちょ、深草さん、手が、手が痛い…!」

2人はそのまま表のタクシー乗り場まで歩いていき、タクシーに乗り込んだ。
行き先を告げて、一息ついた深草は美波に説明を始めた。

「航空自衛隊に協力してもらって、ステルス戦闘機を出してもらうのよ」

「そ、そんな…まさか、撃ち墜とすつもりですか!?」

「やあねぇ…そんなことするワケないでしょう?飛び立った機体はエミレーツ航空EK318便。おそらく行き先は中東のどこか。だとしたらフライト時間は少なくとも11時間以上はあるはず…それだけの滞空時間がありながら、私達は指を咥えて待ってるだけなんて勿体ないわよね?だから、乗り込むのよ…アイツらが乗ってるEK318便に」

「ええっ!?ど、どういうことですか、それ?!」

「あら、美波ちゃん観たことない?大昔の映画だけど『エグゼクティブ・ディシジョン』って映画。戦闘機から特殊な連結装置を旅客機の貨物室の扉にくっつけて、そこから旅客機に乗り込むの。それをやってみようってワケ」

「ちょ、ちょっと深草さん…それ、映画なんですよね…真面目に考えてますか…?」

「大丈夫よ、だって1996年の映画よ?今何年だと思ってるのよ…2027年、ほら30年も経ってたら絶対それぐらい簡単にできるようになってるって」

深草の口ぶりを見る限り、美波はこの人、本気だ…と確信した。それ以降も説得を試みたが、深草は頑なにこの作戦でいくと聞く耳持たず、そうこうしてるうちに習志野基地へと到着した。

 

 

1月17日 PM 1:23
千葉県船橋市
航空自衛隊 習志野分屯基地

「私は政府特務機関JACKALの長官秘書、深草という者だけれど…ここの司令官はどなたかしら?」

分屯基地に入るなり、物怖じしない態度で責任者を呼び出す深草に美波は、そっと深草の背の陰に隠れた。

ーーはあ…この人といると、なんだか疲れるわぁ…

「どんな珍客が来たのかと思って来てみれば、とんだベッピンさんが来たもんだ。で、ワシに何か用かね?」

深草の前に現れたのは、分屯基地司令、春日という50代くらいの頑固そうなヒゲオヤジだった。

「率直に申し上げます。我々は政府からの特派員として貴方がた空自に協力をお願いしたい。ステルス戦闘機を一機、出動願えませんでしょうか?」

「政府からの特派員…ほう。で、ステルス戦闘機で何を?」

春日はまだ依頼内容を掘り下げてはいないが既に渋った顔をしている。

「1時間ほど前に成田から発った旅客機に、ステルス戦闘機から連結装置を繋げていただき、私達がそれを通じて旅客機に乗り込みたいのです」

「なるほど…って、馬鹿かね、君はっ!!そんな危ないマネ、できる訳がないだろう!映画の観すぎだ!」

あまりに無謀な作戦に、春日は深草を怒鳴り散らした。そりゃそうだと美波も同じ気持ちで聞いていた。

「司令…お言葉ですが、私はたしかに馬鹿です。ですが、少なくとも貴方のほうがもっと馬鹿です。この作戦で危険に身を投じるのは私達2人だけです。エースパイロットの方であれば、旅客機に接近して連結装置を機首の下部に繋ぐことなど訳ないでしょう。貴方は自衛隊にありながら、多くの民間人が乗った旅客機内で一人一人殺されていくのを見過ごすというのですか?中に乗っているテロリストはそれほどまでに凶悪な人物たちなのです。先程も、成田で警備員が3名、キャビンアテンダントが1名、その尊い命を落としました。貴方はそれでも力を貸せないと?」

まるで演説のような口振りで、生徒を懇々と説教する教師のように深草は、おそらく20は歳の離れている春日を力強く諭した。

「な、なんなんだ…この小娘は!まったく…恐れ入ったよ!妙に説得力があるし、反論できやしねぇ…もう、勝手にしろ!ステルスでもエースパイロットでも好きに使ってくれ!」

「ありがとうございます、春日司令。ではさっそく…」

深草の陰に隠れていた美波は、深草が春日に対して説得?説教?をしている間、携帯で深草の言う映画の内容について調べていた。

ーー最悪だ。旅客機に連結して乗り込めたのは特殊部隊の5人中3人じゃん…部隊長のスティーブン・セガール、乗り込む前に連結が剥がれて落ちてんじゃん!?

「あ、あの…深草さん、やっぱこの作戦、ヤバくないですか…?」

「ん?どおして?」

深草は何のためらいもなく全力の疑問顔で聞き返した。

「いやだって…映画の内容だと、連結って途中で失敗してるじゃないですか…」

「え、そうなんだ?ごめん、私、実はあの映画ちゃんと観てないんだよね、あはは!」

ーーあはは!じゃないって…笑えないよ…

そんなやり取りをしながら、ステルス戦闘機の格納庫の前に着いた2人は、隊員から戦闘機パイロットが装着している酸素マスクとバイザー付きのヘルメット、そして腕時計のようなものと、かなりゴワゴワしたWツナギWを渡される。

「作戦行動を行う上空は高度10,000m以上、これがなければまともな呼吸が出来ないので、乗り移る際は必ずマスクを付けてヘルメットもかぶってください。あと、このツナギは万が一の時のことを考えたパラシュート内蔵の戦闘服です。もし、連結がはずれて外に投げ出された場合は、とりあえず高度2,000mあたりまでは何もせずに落下して、1,300mに差し掛かったらパラシュートを開いてください。高度はこの時計みたいな計器で見てもらえればわかると思うので。ただ、連結から外に投げ出された直後は気流で旅客機のモーターに吸い込まれやすくなっているので、その点だけは気をつけてください!それでは、健闘を祈ります!」

ーー万が一の時のことまで……やっぱあるんだ、万が一って。…ていうか、モーターってアレだよね、翼についてる筒状のやつで、中でタービン的なやつがグルングルン回ってるアレだよね…吸い込まれたら100パー木っ端微塵なアレだよね。もう…最悪だよ。

 

そんなネガティブな妄想ばかりが先走っていた美波もあれよあれよと気がつけば、高度10,000m上空で戦闘機の待機スペースに鎮座していた。

ーー嵐ちゃん…私、もうすぐそっちに行くかもしれない。そっちでも、また…逢えるといいね……って綾乃かよ!

「………な…みちゃん?……ねぇ、美波ちゃんってば、大丈夫?さっきから視点がヤバイ方向に向いちゃってたけど…気分悪いの?」

妄想が暴走していた美波であったが、深草の問いかけで我にかえる。

「あ、いえ…ただただ不安なだけです…」

「大丈夫だって!私が付いてるじゃない!」

ーー昼間にディアブロ乗ってゲーゲー吐いてた人がよく言うわ…

「は、はは……」

もはや美波は死んだ魚のような目で渇いた笑いを出すしか元気がないようだ。
そんな時だった。美波の携帯電話が鳴り出した。

「えっ!?なになに、びっくりしたぁ……ん?何この番号…国際電話……?も、もしもし?」

『……美波か?悪ぃ、連絡遅くなっちまって…』

ーーえ、こ、この声は…まさか……

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