Ark makes GENOCIDE

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チャプター03 騎士団

- 騎士団 -


部屋を抜け出し、廊下へ出ると人影はなく先程の雨嵐のような乱射が嘘のように静まり返っていた。

「こりゃアレだな…嵐の前の静けさってヤツだろうな。」

「…室長、いちいち古臭いんですよ。」

銃を構えながら壁伝いに歩く壬生がボソッと吐き捨てる。京極は聞こえていたのをあえてスルーしたのか、もしくは物音に神経を集中させていたのか、何も反応することなく突き当たりのエレベーターまで足を進めた。

京極たちが宿泊していたのは4F。エレベーター周辺は物陰がなく、エレベーターに敵が乗っていた場合、乱戦になることは必至だった。
二人はエレベーターの扉の前で銃を構え、到着を待つ。階層を示すアンティークな扉上の針が1から4へとゆるやかにベクトルを進めていく。針が4を指し示すと、チーンという安っぽい鐘の音が鳴った。
そんな安っぽい音とは裏腹に、二人の緊張感は最高潮に達していた。

……。

……。

何の反応もない。
誰も乗っていないのだろうか。
痺れを切らした京極が思い切ってスライド式の扉を開けた。エレベーターの中はもぬけの殻で、人が乗っていた形跡はなかった。
肩透かしを食らった二人は安堵というべきか、緊張の糸が切れたのか、深く息を漏らし、無人でやってきたエレベーターに乗って1Fへ降りた。

「さっきのが単なる威嚇射撃…ってことはないだろうな。まったく…イタリアに来てから災難続きだ。」

「とりあえず、当たればラッキーくらいな気持ちで、俺たちをホテルの外に炙り出したかったんじゃないですか。」

先ほどの流れからして、1Fのエレベーターの扉の前でも待ち伏せはないだろうと思っていた二人だったが、ひとまず扉の外に向けて銃を構えてみる。
到着の鐘の音が鳴って、しばらく待てども、やはり何も反応はなかった。
今度は壬生が勢いよく扉を開けたが、案の定、誰も立ってはいなかった。エレベーターから出て、まっすぐロビーへと向かう。
フロントの係の者もいなければ、敵の気配もない。

「どうします?これ、きっと外で待ち伏せのパターンですよね。堂々と正面から外に出て、さっきの派手なやつ見舞われたらオシマイですけど…」

「だが、出ないことには、この状況を打開することもできんだろ…こうなれば、致し方ない。当たって砕けろだ。」

言葉のチョイスが古いって…しかも砕けてるし!……壬生はそう思ったが、今は口に出すことはしなかった。

「裏に従業員用の勝手口とかあると思うんですけど…今は当たって砕けるよりも逃げるが勝ちっていうのが一応、俺の意見です。」

「…たしかに現段階では相手の人数もわからなければ、地の利も向こうにある。いくら俺たちがプロとはいえ、不利すぎる現実は揺るぎない…か。わかった、裏から出て、とにかくミラノを出よう。嵐たちと合流して、体勢を立て直す。それでどうだ?」

「異存なしでーす。」

「そうと決まれば、こんな物騒なところはさっさとオサラバだ。」

珍しく意見は合致したが、やはり京極の言うことは何かにつけて古い…壬生はそう思うのであった。

慎重かつ迅速に関係者以外立ち入り禁止の通路を抜けて、正面エントランスとは真逆の方向に位置する裏口への扉の前に到着し、先頭を歩いていた京極がそのまま鉄製の扉を少し開けて外の様子を窺った。
辺りには人通りはなく、アパートは建ち並んでいるが特に視界を遮るような障害物もないので誰かが潜んでいるような感じでもなかった。

「こちらで正解だ。このままどこかでタクシーを捕まえて嵐たちと合流した店まで戻るとするか。それにしても、派手なのは服装と威嚇だけで、まだまだツメが甘いな、イタリア人は…」

そう言いながら、扉を開けて外に出た瞬間だった。
京極の左頬を銃弾が音もなく掠め、壁に突き刺さった。

「イタリア人がどうしたって?」

たしかに数秒前までは誰もいなかったはずの真正面に一人の法衣の男が立っていた。
よく見ると、男は法衣の下に甲冑を身に付けている。法衣には真紅の十字が描かれていた。

「フッ…上手く隠れていたものだな。サイレンサーとはやるじゃないか。少し驚いたぜ。」

頬から流れ出た一筋の血を親指で拭い、京極は余裕の笑みを浮かべた。

「ほう…敵に見つかったというのに、やけに冷静だな。」

「これまでの人生で何度も酷い目に遭ってるんでね。イタリアのクソ坊主に出会したくらい、たいしたことではないと思ってな。」

勝ち誇った様子で相手と会話している京極を他所に、壬生は辺りの異変に気が付き、京極を肘でつついた。

「ん?どうしたんだよ?」

「マズイことになってます。周りをよく見てください、センパイ。」

そう言われて京極は辺りを見回した。
周囲のアパートの中から続々と正面に立っている男と同じ法衣を纏った男たちが出てきている。

「フッ…なるほどな。地の利を活かした戦術って訳か。まさかこの一帯がグルとは…やってくれるじゃねぇか。お前たち、ただの坊主じゃないな。一体何者だ?」

京極たちの周りに現れた男たちはざっと見ても30人は下らないほどの人数だった。
素人相手に京極と二人なら、骨の折れる仕事ではあるが決してこちらが不利な状況ではない。しかし、壬生はあることが気にかかっていた。男たちが手にしている武器。中世の騎士が持っている剣のような形状をしているが、どこか違う。ただの剣ではないような何か秘密が隠されている気がしてならなかった….。

ーー剣…?俺たちを部屋から炙り出したさっきの銃撃は別部隊だったのか?いや、待てよ…あの正面にいる男も剣しか持っていない。じゃあ、室長の頬を掠めたサイレンサーの銃弾はどこから…

「我らは神に仕えるテンプル騎士団。神を冒涜した貴様たちには、一片の慈悲も与えるな。コロッセオで神の言葉を聞き損じた民たちの前で断罪し、見せしめとする故、生きたまま連れ帰るようにと教皇からのご命令だ。懺悔するなら今の内だぞ。」

「テンプル騎士団?フッ…なるほど。教会お抱えの軍隊ってワケか。そんなオモチャみたいな武器で俺たちとやり合おうっていう度胸は認めてやるが…お前たちがやるというなら、こちらも黙って殺られる訳にはいかないな。」

どうやら京極は相手が所詮、ただの生臭坊主だと踏んでいるらしい。30人の騎士団を前にしてもさほど動揺している様子はなかった。

「室長、アイツらの武器、何か秘密がありそうですよ…侮らないほうがいいんじゃないですか。」

「話はここまでだ。皆の者!彼奴らを生け捕りにせよ!生きてさえいれば重傷を負わせても構わん!」

指揮官と思われる男の掛け声と共に、法衣を纏った騎士たちは京極たちへと駆け出して行く。
京極と壬生も臨戦態勢へと移り、すかさず距離を詰めてきた騎士たちに銃を向ける。
京極が一発目に放った銃弾はたしかに直近の騎士の心の臓を捉えていたはずだったが、法衣の下の甲冑がそれを弾いていた。
それを見ていた壬生は咄嗟に機転を利かして、二発の銃弾を左右の騎士たちの額に見舞った。
案の定、遮るもののない額に食らった騎士たちはその場に伏したが、その屍を越えて続々と騎士たちは襲い掛かってきた。
京極も壬生に倣い、騎士たちの頭部を狙い撃とうとした、その時だった。

「ぐっ…!!」

京極が左腕を負傷した。
その傷は明らかに銃弾によるものだった。

ーーいったい、どこから銃弾が…?!こいつらの他にもどこかに狙撃部隊がいるのか…?

怯んだ京極にすかさず騎士の一人が斬りかかる。しかし、京極も熟練の暗殺者…死地は幾度も越えている。慣れた身のこなしで銃身で以って剣の斬撃を受け、騎士の懐に蹴りを見舞う。
甲冑を身につけているとはいえ、イタリア人とたいして変わらない京極の長い脚から繰り出された蹴りは相手を突き飛ばすのに十分な威力を持っていた。
突き飛ばされ、剣の間合いから外れた騎士だったが、なぜか騎士はその離れた場所で剣の先端を京極に向けてきた。

その瞬間だった…

京極は何かに気付き、咄嗟に右側に飛び込んで剣の直線上から逸したが、それでも右脚に軽く違和感を感じた。
右脚のふくらはぎあたりのグレーの生地に薄く血が滲んでいる。

「やれやれ…まさかとは思ったが、その剣から銃弾が飛んでくるとはな。サイレンサーのような微かな音がしたのが幸いだったぜ。」

刀身の先からは薄っすらと煙が出ていた。
よく見ると、菱形をした刀身の先端、その中央に小さな穴が開いており、そこから煙が出ている。

「フフフ…よく避けれたな。だが、次はどうかな?」

騎士は先端をこちらに向けたまま、"突き"で攻めてきた。猛牛のように一直線に突き進んでくる騎士と剣に、京極は闘牛士が持つムレータの如く軽やかに身を翻した。
そのムレータを追うように、猛牛の剣は突きから横へと向きを変え、"薙ぎ払い"で迫ってきた。
京極の胸元へと迫り来る刀身。絶命の危機かと思いきや、京極は銃のグリップの底を騎士の剣を持つ手に強く振り下ろし、剣を叩き落とした。
すかさず京極は丸腰になった騎士の額に銃弾を見舞い、落ちた銃剣を手にした。

だが、剣を手にした京極は激しい衝撃に襲われ、その場で気を失い、地に伏してしまった。

「室長?!」

手際よく応戦していた壬生が京極の異変に気付いたが、そのスキをつかれ、周りを取り囲まれてしまう。

「フフフ…片付いたな。」

指揮官が不敵に笑みをこぼす。

「一つ教えてやろう。剣は我ら騎士の誇り、そして最新技術の結晶なのだ。我々以外の者の手に渡らぬよう、予め指紋認証が施してあるのだよ。もし誰かの手に渡った場合は、激しい電流が流れる仕組みになっている。その男は浅はかだったな。」

「くっ…ソツがないな。これまでか……」

 

 

12月28日 AM 9:30
イタリア ローマ市街
とあるホテルの一室にて

美波は机に向かい、ノートPCでヴァチカン侵入への算段を立てていた。
嵐は煙草に火をつけ、テレビを見ている。

"速報です。昨夜未明、ミラノの一画で日本人テロリスト2名の身柄が拘束されました。このテロリストは昨日、ローマのコロッセオで行われた教皇ユリウス4世の演説に介入し、教皇暗殺を企てたものと見られています。ローマ市警が総力を挙げて捜査を行っていたところ、ミラノ市街のホテルに滞在しているとの情報が入り、身柄が確保された模様です。お待ち下さい…中継でヴァチカンと繋がっております。今から教皇がこの事件に関して、声明を発表するそうです。ご覧ください。"


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